「ケアの哲学」書評 依存と自律をいかに両立するか
ISBN: 9784409031230
発売⽇: 2023/06/23
サイズ: 20cm/205p
「ケアの哲学」 [著]ボリス・グロイス
ヤングケアラーや介護現場の苦境が報じられる一方、ケアという概念はここ数年、倫理学・政治学・批評等で総じて積極的な意味で用いられてきた。ただ、流行語の常として、その語られ方がときに易(やす)きに流れることがあるのも確かだろう。ならば、今こそケア論のケアが必要ではないか。
本書では、世界的な美術批評家ボリス・グロイスがケアの哲学を語る――しかも大胆かつ意外なやり方で。彼はソクラテス以来の哲学をケアの思想として読み替える一方、従来のケア論にハイデガーやアレントの哲学から介入しようとした。異なる知的体系を遠慮なくシャッフルする彼のやり方は、現代アートの手法を思わせる。
そもそも、ケアの公共化は、革命の時代が終わり「自己保存」が人類の最大の関心事になったことと関わる。著者によれば、それを象徴するのが病院と美術館である。病院が人体を治療し保護するように、美術館は作品を修復し保存する。今の病人はまさに美術品のように扱われる。もし手厚い保護が途切れれば、人間も美術品もモノにかえり「大地」に吸収されるだろう。
しかも、現代人はインターネットの生み出す「象徴的身体」までケアするように強いられている(炎上対策!)。ケアの社会では誰もが潜在的な病人であり、ゆえに過剰に防衛的なふるまいが目立つようになるのだ。では、この病院=美術館に似たシステムのなかで、自己に固有の生を選び取る真の「セルフケア」はいかにして可能なのか。つまり、依存と自律はいかに両立できるのか。著者はそのヒントを、ソクラテスの産婆術やニーチェの超人論、ボグダーノフの奇怪な革命論等に求めている。
本書は色々な意味で「やさしくない」ケア論だが、それは戦略的なものだろう。ケアを哲学とアートの迷宮に投げ入れながら、その意外な一面をあぶり出すこと――それこそがグロイス流の批評なのである。
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Boris Groys 1947年、東独生まれの美術批評家。81年に西独へ亡命、米欧で批評活動を続けている。