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まなざし変える愛情のこもった記録「都会の鳥の生態学」 杉田俊介が選ぶ新書2点 

『都会の鳥の生態学』

 唐沢孝一『都会の鳥の生態学』(中公新書・1155円)はツバメ、スズメ、水鳥、カラス、猛禽(もうきん)などの身近な都市鳥たちを愛情を込めて長年観察・調査した記録。鳥と人間は独自のソーシャルディスタンスを保って相互作用の中で関係を作ってきた。鳥たちが消えたなら人間の暮(くら)しはどんなに味気ないだろう。いや、人間が鳥を観察し愛(め)でるだけではない。鳥たちは人間の存在や建築物すらも利用して、強(したた)かに賢く、懸命に生き延びている。鳥たちの側から見渡せば、人工的な都市もまた「自然」の一部であり、人間たちの営みもその循環の中に組み込まれている。本書は都市=自然への眼差(まなざ)しを「鳥―人間」のハイブリッドに変えてくれる。
★唐沢孝一著 中公新書・1155円

『サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか』

 荒木優太『サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか』(集英社新書・1056円)は、一部のフェミニズム的な言説のサークル性に対する批評的な介入、という印象が強かった。サークル集団は必ず一定の歪(ゆが)みや偏りを抱え、敵を排除するという毒性を持つ。それに対する解毒(デトックス)は、「パルマコン」(毒と同時に薬を意味するギリシャ語)的にならざるをえない。荒木の語りは特定の対象に没入せず、あちこち飛んで、冷笑的なのか誠実なのか、真面目なのか不真面目なのかわからない。それ自体が毒=薬という戦略なのか。
★荒木優太著 集英社新書・1056円=朝日新聞2023年7月15日掲載