エジプト、モロッコ、日本を拠点に書店や出版社を展開する女性創業者3人のトークイベント「女性がつくる書店と出版社」が2日、東京都内で開かれた。エジプトで独立系書店チェーンを創業したナディア・ワーセフさんらが登壇し、出版文化やフェミニズムについて語り合った。
ワーセフさんの著書の邦訳版「SHELF LIFE」(後藤絵美訳、G.B.)の刊行記念イベント。ワーセフさんは女性の権利に関する調査活動などを経て、2002年に姉らとともに書店「ディーワーン」を設立した。
当時のエジプトでは、政府系の書店が安価で粗悪な本を大量に売っていた。「そんな中で、私たちはカルチャーに投資すると決めた」とワーセフさん。客にとって書店が魅力的な場所になるよう内装や品ぞろえに力を入れ、出版業界とも交渉を重ねることで、高品質で価値のある本の提供に尽力してきたと話した。
モロッコで出版社・アートセンター「クルテ」を運営するヤスミナ・ナジさんは、フェミニズムやマイノリティーを扱った本を中心に出版している。「フェミニズムや書籍作りでは、言葉で表せないことを視覚的な要素を使って伝えることも重要」とナジさん。伝統的宗教観に基づく保守的な本が市場にあふれる中で、装丁やグラフィックデザインの持つ力を強調した。
日本からは、フェミニズム専門の出版社兼書店「エトセトラブックス」創業者の松尾亜紀子さんが登壇。「フェミニストが書いた本はすぐに絶版になる。だからうちの書店では古書も扱うし、出版社では記録することを大事にしている」と話した。(田中ゑれ奈)=朝日新聞2023年7月19日掲載