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社会的課題と向き合った実践の記録「なぜ豊岡は世界に注目されるのか」 高谷幸が選ぶ新書2点 

『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』

 身近にある社会的課題は、課題とまず認めることが難しい。それが解決困難であればあるほど、人は目を背けたくなる。だが、課題を解決するには、その困難を直視するところから始めるほかない。中貝宗治『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』(集英社新書・1100円)は、兵庫県北部、人口減少に悩むまちの市長を務めた著者が「小さな世界都市」を目指して実践してきたまちづくりの経験を語る。コウノトリの野生復帰、演劇などで注目を集めた後、まちが若い女性に選ばれていないことに気がついた著者は、ジェンダー不平等の改革にも取り組むようになった。自らの反省や今なお途上の課題をも率直に記す本書は、何かを変革しようとしている人たちの励みになるだろう。
中貝宗治著 集英社新書・1100円

『客観性の落とし穴』

 村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書・880円)は、「客観性」を求める学生からの反応に対する著者の違和感から書かれたという。とはいえ本書の核心は、客観性批判以上に、著者が実践してきた現象学の立場からの質的研究を語る部分にある。大阪・西成で行ってきた自らのインタビューを例に、個別の生き生きとした経験を捉える方法を論じる著者の筆致自体が、数字には還元できない人の生の豊かさやあわいを記述することの魅力を物語っている。
村上靖彦著 ちくまプリマー新書・880円=朝日新聞2023年7月22日掲載