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第169回芥川賞・直木賞、講評で振り返る選考 市川沙央さん・垣根涼介さん・永井紗耶子さん受賞の理由は

芥川賞の市川沙央さん(右)と、直木賞の垣根涼介さん(中央)、永井紗耶子さん=諫山卓弥撮影

 芥川賞は市川沙央さんの「ハンチバック」(文芸春秋)に決まった。「最初の投票から圧倒的な支持を得て、2回目の決選投票はありませんでした」と、選考委員を代表して平野啓一郎さんが説明した。

 受賞作はグループホームで暮らす重度障害者の女性を主人公に、障害とともに生きる困難を皮肉とユーモアを交えて書いた作品。作者の市川さん自身にも主人公と同じ障害がある。「主題となっている状況と文学的な才能が非常に高いレベルで拮抗(きっこう)して、稀有(けう)なすばらしい作品を生み出した」と高く評価された。

 視点人物が代わり、読者の解釈が分かれる結末については議論もあったが、「文学は決まり切った正しいことだけを提示して、そうだよねと納得する回路からいかにはみ出したところで書くかが重要」とした上で、「議論を喚起する強い力があるということは、選考会では非常に肯定的に評価されました」と述べた。

 直木賞は垣根涼介さんの「極楽征夷大将軍」(文芸春秋)と、永井紗耶子さんの「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」(新潮社)の2作だった。選考委員を代表して、浅田次郎さんは「1回目の投票で垣根さんと永井さんの二つがまったく同じ得点で、2回目の投票でもなおかつ同じ得点だった」と明かし、「あっさりと2作受賞になりました」と話した。

 「極楽征夷大将軍」は室町幕府の初代将軍、足利尊氏の半生を弟の直義と側近の高師直(こうのもろなお)の目から描いた歴史巨編。「太平記に沿って長い歴史の時間を全体的に書いた、とても巨視的で重厚な力作」と評された。

 一方の「木挽町のあだ討ち」は、江戸の芝居小屋近くで起きた騒動の隠された真相を小屋の裏方たちの語りによって浮かび上がらせる時代小説。「一言一句読み飛ばすことができないくらい、大変細やかな配慮の行き届いた作品」と評価され、今年の山本周五郎賞とのダブル受賞となった。

 主催の日本文学振興会によると、今回は芥川賞・直木賞ともにリモート参加の選考委員はいなかった。全員が対面で選考に臨むのはコロナ禍以前の2019年夏に開かれた第161回以来、4年ぶりだった。(山崎聡)=2023年7月26日掲載