『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』
大谷翔平や藤井聡太の卓絶したパフォーマンスを見ていると、どこまでが生まれつきでどこからが努力なのか、あるいは努力できるところまで含めて生得のものなのか、誰しも考えてしまうことだろう。安藤寿康『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』(講談社ブルーバックス・1100円)は、人間の能力とはどこまで遺伝で決まっているのか、行動遺伝学研究の最先端を伝える。
こうした知見は、今後の教育や社会構成を考えていく上で極めて重要である一方、扱いを少し間違えれば差別や優生思想などにもつながりかねない危険をはらむ。本書ではこの面の考察にもかなりのページが割かれており、必読といえる。
★安藤寿康著 講談社ブルーバックス・1100円
『植物に死はあるのか 生命の不思議をめぐる一週間』
一方、稲垣栄洋『植物に死はあるのか 生命の不思議をめぐる一週間』(SB新書・990円)は、植物という存在の不思議について、まるで物語のように説いてゆく。植物はなぜ動かないのか、木は何本あるのかといった一見とらえどころのない疑問を起点に、生命とは、動植物とは何かという思索が展開される。
ふだん何気(なにげ)なく眺めている草や木は、実はこういう存在であったかと、眼(め)を開かされる思いがする。木々の梢(こずえ)を吹き抜ける風のように、さらさらと読み進められる一冊だ。
★稲垣栄洋著 SB新書・990円=朝日新聞2023年7月29日掲載