1. HOME
  2. コラム
  3. 子どもの本棚
  4. 「なつやすみ」ほか子どもにオススメの8冊 夏休み、想像の翼ひろげて

「なつやすみ」ほか子どもにオススメの8冊 夏休み、想像の翼ひろげて

「なつやすみ」

 こうたくんの家にいとこの家族が泊まりにきた。みんなでプールにでかけ遊んだ後はお昼を食べてひと休み。昼寝から起きたらスイカをほおばり、夕方には浴衣に着替えて神社のお祭りへ。ゆったりとした時間が流れるなつやすみ、こんな経験ができるといいですね。
 ユニークな構図の絵にはいろいろなものが描かれているので、それをさがす楽しみがあり、ページをめくる度にわくわくします(麻生知子作、福音館書店、1650円、5歳から)

「白狐魔記(しらこまき) 源平の風」

 この物語はきつねの目を通して書かれた歴史ファンタジーだ。人間のことに興味を持ち、もっと知りたいと思ったきつねが、白駒山の仙人を訪ね人間に化けるための修行をする。その術を習得し白狐魔丸(しらこままる)と名づけられたきつねは、源平の戦いで勝利した源頼朝に追われている義経の一行と行動を共にすることになる。読み始めると、まるで自分もその時代にいるような感覚で楽しむことができる(斉藤洋作、高畠純画、偕成社、1430円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】

「かげふみ」

 夏休み、広島のおばあちゃんの家に来た拓海は、近所の児童館の図書室で不思議な女の子と出会う。1945年と現在がつながるファンタジー。
 いきなりいなくなってしまった大切な人たち。喪失感を抱えながら生き続ける残された人たち。双方の想(おも)いが、まだまだ広島の地には多く刻まれている。「ヒロシマの実相」を伝えていきたいという作者の強い思いが胸に迫る。自分ごととして向き合いたい(朽木祥作、網中いづる絵、光村図書出版、1760円、小学5年生から)

「ぎょうざのひ」

 急いで帰る女の子。だって今日は「ぎょうざのひ」。妹や弟と一緒に材料をまぜ、いろいろな形に包んじゃう。ああ楽しいなあ。お母さん、カリッとおいしく焼いてね!
 家族の団らんと、食欲をそそる餃子(ぎょうざ)の匂いで幸せになってしまう。これを読んだら、今日は餃子を食べるしかない。暑い夏、スタミナいっぱいの「ぎょうざのひ」、何回できるかな。笑って満腹。おなかも気持ちも満たされる絵本(かとう まふみ作・絵、偕成社、1100円、5歳から)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】

「ヨシ 3万7千キロをおよいだウミガメのはなし」

 オーストラリアの浜で孵化(ふか)したアカウミガメの赤ちゃんの軌跡をたどるノンフィクション絵本。様々な危険にあいながら広い海を泳いでいき、アフリカで網にかかったときは日本の漁師に助けられて、20年間水族館で暮らしたことも。その後、海に戻ると、また長い旅をして生まれた浜に戻り次の世代へと命をつなぐ。美しい海の情景も楽しめる(リン・コックス文、リチャード・ジョーンズ絵、いわじょうよしひと訳、あすなろ書房、1650円、小学校低学年から)

「3びきのかわいいオオカミ」

 「3びきのこぶた」のブタとオオカミの立場を逆にした絵本。気の毒なオオカミの子どもたちが建てた家を、とんでもなく悪い大ブタが電気ドリルやダイナマイトまで使って次々に破壊していく。ユーモラスな絵に思わずくすっと笑ってしまうが、最後の思いがけない結末は、現代の戦争や紛争を考えるきっかけにもなりそう(ユージーン・トリビザス文、ヘレン・オクセンバリー絵、冨山房、こだまともこ訳、1870円、幼児から)【翻訳家 さくまゆみこさん】

「世界で最後の花 絵のついた寓話(ぐうわ)」

 「みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり」という書き出しに冷やっとします。とぼけた線画と一見シュールな短い文で綴(つづ)る寓話。文明も自然も破壊され、芸術も愛も消え失せます。現代社会への痛烈な風刺と読めますが、第2次世界大戦が始まる年に書かれた予知的作品です。どん底から再生した人類は、やがてまた? 短編小説や1コマ漫画で20世紀に活躍した作者の新訳絵本。7歳の娘への献詞と、最後の一輪の花に切なる願いを感じます。親子で読むなら(ジェームズ・サーバー作、村上春樹訳、ポプラ社、1760円、小学校高学年から)

「なぜ あらそうの?」

 1匹のカエルが愛(め)でていた1輪の花を1匹のネズミが奪う。すると2匹のカエルが加勢し、辺りの花を摘みまくる。今度はネズミが仲間と戦車に乗り……止まらない仕返しの仕返し。なぜ? 少年期の戦争や読書体験から争うことの無意味を訴え、一昨年に亡くなったロシアの絵本作家の代表作。想像力を刺激する文字なし絵本(ニコライ・ポポフ作、BL出版、1650円、4歳から)【絵本評論家 広松由希子さん】=朝日新聞2023年7月29日掲載