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「カンニング竹山の50歳からのひとり趣味入門」インタビュー 「3日坊主でいい。やりたいことやって」

カンニング竹山さん=家老芳美撮影

遊びの延長が仕事になる

――多趣味な竹山さんがそもそも趣味に目覚めたきっかけは?

 いや、別に趣味を始めようと思って始めたわけじゃないです。ただ、若かった頃にやりたかったけど、お金がなかったりしてできなかったことがいろいろあるでしょう? それが今ならできるかもと思って、やってみて、ハマってというだけ。例えば、今は趣味の一つとなっている飛行機。昔は大嫌いでしたけど、あるきっかけで飛行機のことが分かってきて、夢中になった。そういう一つひとつの積み重ねにすぎません。

 直接のきっかけは堺正章先生が、あるテレビ番組の収録で「竹山くん、最近どう?」と声をかけてくれたことです。僕が「夜のほうですか?」と返したら「バカ、そうじゃないよ。そんなのは、もうやめないと。そうじゃなくて、ちゃんと遊んでいるのかってこと」と言ったんです。

 「今、仕事は順調だろ? レギュラーもあって、テレビにもしょっちゅう出ている。だけど、若い頃みたいにもっと前に出たいとも思わなくなった。俺って何やっているんだろう、将来どうなるんだろうと、何だかもがいているような気持ち、ないかい?」。芸能人ばかりと遊ぶんじゃなくて、自分がこれまで関わってこなかった会社員や自営業といったジャンルの人たち、そして時にはひとりで遊んで、どんどん見識を広めていく時期なんだと。40代半ばから50代にかけてどれだけ遊んで学べたかで、この先の人生が大きく変わってくると。

 そんな大先輩からの言葉に感銘を受けました。同じ頃にとんねるずの木梨憲武さんに遊ぶきっかけをつくっていただいたのも影響が大きかったですね。憲武さんは生活が全部遊び。常に何か面白いことができないかと考えているから、遊びの延長が仕事になるし、仕事の延長が遊びになる。そんな憲武さんと遊んでもらうようになって、もっと自由に生きようと思ったんです。

競馬は人生の縮図

――趣味の一つである「競馬」では、無名時代のエピソードを書かれていました。

 20代の頃、同世代がどんどん売れていき、芸人として「もうダメだな」と追い詰められた時期に出会ったのが、グラスワンダーという馬でした。「この馬に自分の人生を賭けてみよう。この馬が出世したら、俺も出世できる。逆にこの馬が走らなかったら、俺も芸人として終わりだ」と思った。藁をもすがる思いというか、どこかグラスワンダーと自分を重ねて、芸人を辞めるきっかけみたいなものが欲しかったんだと思います。

 1998年の有馬記念、グラスワンダーは4番人気でした。ここまでグラスワンダーは負け続きで、世間的にもなんとなく有馬記念の勝利には諦めムード。それでもレースでは第3コーナーを曲がって、最後の直線を抜けて、1着になった。こんな奇跡が起きるんだと思いました。僕は膝から崩れて、人目もはばからず泣きました。本心では芸人を辞めたくなかったし、まだやれると思っていたんです。それをグラスワンダーから教えられた気がします。

――競馬はギャンブルではありますが、馬はかわいいし、全力で走る姿は魅力的ですよね。

 そうですね。血統の魅力やロマンがあります。数字も大事ですけど、ずっとその馬を見てきて「どうしてもここは勝ってほしい」「お前は絶対行ける」と思いを馳せることができますから。

 やはり競馬はね、人生の縮図ですよ。クラス分けがされて、走れるレースと走れないレースがある。 自分は今、社会の中でどのランクなんだ? まだ条件馬? そういうことを考える面白さがあるんですよ。

――本の中では、相方だった中島忠幸さんの話が頻繁に出てきます。中島さんは2006年に、ご病気のため35歳という若さで亡くなりました。中島さんの存在があったからこそ、今、人生を楽しもう、趣味を思う存分やってみようと思われたのでしょうか?

 中島の存在があったから、人生を楽しもうとしているわけではないですね。ただ、お笑いコンビ「カンニング」がないと、今の「カンニング竹山」は存在しないわけです。そういう意味で、中島とコンビを組めたことに感謝していますけども。

オンとオフ、変に分けると楽しくない

――飛行機、キャンプ、野球、YouTube制作といろいろなことに取り組んでいる竹山さん。仕事も日々忙しい中で、どうしたら趣味を見つけられますか?

 趣味なんて別に見つけなくていいと思います。何も興味なかったら、何もやらなくていいと思うし、逆に「趣味を見つけなくては」と焦っている人は、 多分無理やり何かを見つけても楽しくないと思うから。僕も全部きっかけは人との出会いですよ。人と出会って、話を聞いて、面白そうだなと興味を持って……。趣味を見つけようと思って始めたことなんて一つもないです。

 そもそもオンとオフを分けようとしているでしょう?そこがダメなんですよ。「仕事がオン、趣味がオフ」ではないんですよ。もう全部オンなんです。仕事と趣味を変に分けると、楽しくないですよ。

――あとがきにも「周りに合わせてやりたくないことを無理にやる必要はない。趣味なんて、大仰に構える必要は全然なくて、面白いと思ったら続ければいいし、あんまり面白くないなと思ったらやめればいい」と書かれていますね。

 そうです。興味がないことは無理やりやる必要はないと思いますけど、興味があることはね、やった方がいいですよ。「こういう集まりがあるらしい。どうしようかな?行ってみようかな?」と迷ったときはね、楽しいことが起こる確率の方が高いと思うから。

 例えば、アメリカンフットボール。僕がアメフトを好きになったきっかけは、仕事やプライベートで海外に行くようになって、トランジットでアメリカの空港で待っていると、ロビーのテレビでアメフトが中継されているんですね。それをおじさんもおばさんも「WOW!」とか言いながら楽しそうに見ているんですよ。最初は何が面白いのか分からなかったけれど、ちょっと勉強してくると、面白さが分かってくる。

 それで、NFLのシアトル・シーホークスというチームを応援するようになる。すると、そのチームのファンが集まるオフ会を開いている人からSNSを通じて、「参加しませんか?」と連絡が来る。なかなか時間が合わなくて参加できなかったんだけど、1回だけ行ってみたら、40人ぐらいいろいろな人が集まっていて、みんなでお酒を飲みながら語り合って。めちゃくちゃ楽しかったなぁ。

3日坊主でも全然いい

――今52歳の竹山さん。これからやってみたい趣味は?

 最近はカヤックに乗るのが好きなんですよ。キャンプに行ったときにカヤックを借りたり、多摩川を下る番組を仲間たちと作ったりしてきたんですけど。多分、興味を持った一つのきっかけは、開高健さん。子どもの頃に開高さんがカヤックに乗っている姿をテレビで見たり、彼の本を読んだりして、今の俺ならできるかもと思ったんですよ。

――「やりたい」と思ったら、まずやってみると。

 そうそう。きっとジェットスキーに乗っているおじさんも同じだと思いますよ。子どもの頃に「なんだ、あれ?」と思っていたけど、意外と大人になったら「これ、できるかも」と思って免許を取って、ハマっていくわけでしょう?

 やりたいことを全部やってみて、ハマったものだけ深くやればいいじゃないですか。「やるからには突き詰めなくてはいけない」と考えている人もいるかもしれないけれど、全部を突き詰めるのは苦しい。楽しいと思えるものを深めればいいし、全部3日坊主でも全然いいと思います。

――好書好日は本のサイトなのですが、竹山さんにとって読書は趣味にはなりませんか?

 結構、本を読みますよ。でも自分の中でバイオリズムがあって、1カ月に3、4冊読むこともあれば、パタっと読まなくなって「積読本」が増えていくこともある。

 本屋に行くのは好きで、本はジャンルを問わずに購入していますね。本屋大賞をとったような話題の本や時代小説、自分がたまたま興味を持った本まで。最近はね、東京の水道史を扱った本だったり、殺人事件のノンフィクションだったりを買いました。

――竹山さんはこれから仕事も趣味も楽しむ生き方を目指されるのでしょうか?

 そうですね。仕事も遊びも楽しんでいけたらいいなと思います。まだまだ本当にやりたいことだらけですから。

インタビューを音声でも!

 ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」でもカンニング竹山さんのインタビューを公開しています。