昭和の漫才師を彷彿(ほうふつ)とさせる青いジャケットは、実は7種類もある。2016年に若手漫才師の頂点を決める「M―1グランプリ」で優勝した、お笑いコンビ「銀シャリ」のツッコミ担当。日常でも突っ込まずにはいられない性分が功を奏し、初エッセー出版にこぎ着けた。「本を出すなんて夢のよう。でもこの性格、ほんましんどいですよ」
家で、電車内で、飲食店で――。日常で気になることがあれば、即座に脳内でツッコミを入れる。「人間観察とかね、そんなご機嫌なものじゃないんですよ。モヤモヤにね、お線香をあげてます」。先日は熱々と書かれたカップラーメンに目がいった。「お湯入れるん、こっちやから。店の豚汁とちゃうねんから」
ほかにも、店先の「生ビール冷えてます」の貼り紙には「そりゃそうやろ。冷えてないときだけ書いとけよ」と一言。冷やし中華は始めたときだけでなく、終わるときも教えて欲しい。著書ではそんな日常の些細(ささい)なエピソードを、面白おかしくつづった。
「マニアックなあるあるが好きで。誰も言語化してないものを見つけたいんですよ。『別にええやん』で片付けずに、日常のモヤモヤを誰かと共有したいんですよね」
来年、コンビ結成20周年を迎える。相方とは今も朝の起こし合いを続ける「熟年夫妻」のような関係だ。M―1優勝時の決勝戦で、共に劇場で汗を流した「和牛」や「スーパーマラドーナ」と接戦で競えたことが、優勝後も燃え尽きず、漫才を続けられた糧になっているそう。「単独ライブで全国を回って、新ネタを作る。当たり前のことを丁寧に、2人でやっていきたい」
今年、M―1の出場組数が1万組を突破した。参加者が増え、お笑いが市民権を得たことを誇らしく思う一方、論評が激化し、「審査員たたき」のような昨今の風潮には、違和感もある。「毒もエンタメも快楽。うれしい悲鳴ですけど、気楽に見て欲しい」
日々の機微を脳内で楽しみ、俯瞰(ふかん)で自分を笑わす。みんながそんなツッコミ役になれば、もっと明るく楽しい世の中になると信じている。(文・岩本修弥 写真・岡田晃奈)=朝日新聞2024年11月9日掲載