今回読んでみたのは「きんぎょ生活」。奥深く楽しい金魚の世界をお届けする金魚愛玩誌とある。私は、金魚は熱帯魚に比べて地味では? というぐらいの認識しか持っていなかったが、最新号の表紙がアカぬけていたので思わず手にとった。金魚の魅力とは何だろう。
特集「愛好家の飼育スタイル拝見」を読むと、品評会の話がよく出てくる。飼って眺めるだけでなく、品種の掛け合わせや、餌や飼育環境の工夫によって、色や形が個性的な個体を育て上げるのが、金魚生活の醍醐(だいご)味らしい。
「体色の不思議に迫る」という記事に、金魚の色がたった3種類の色素胞(黒色素胞、黄色素胞、虹色素胞)の組み合わせでできていることが書かれており、そこから多種多様な色合いと模様が生まれてくるところは、なるほど工夫のし甲斐(がい)がありそうである。
驚いたことに、金魚の約90%の遺伝子が全ゲノム重複という状態にあるそうだ。多くの生物が父親と母親からそれぞれの染色体を1組ずつ受け継ぐ2倍体であるのに対し、金魚の祖先種はすべての染色体が2倍ある4組の染色体を持つ生物であったため、他の魚類に比べて色や形の多様性が許容されるというのだ。難しい話はわからないけれど、言われてみれば、鯉(コイ)でも鯛(タイ)でも、同じ種類でこれほど多様な姿をした魚は見たことがない。特別な生物なのである。
「日本の金魚雑貨」という記事にも面白いことが書かれていた。
《日本では金魚と同じぐらいポピュラーな存在だがフォルムが普通の魚っぽい錦鯉(ニシキゴイ)やメダカには、金魚ほど多くの絵画や雑貨などは存在していない》
たしかに目が出ていたり、瘤(こぶ)があったり、目の下に大きな水疱(すいほう)があるなど、金魚だけ異形である。これも全ゲノム重複のおかげなのだろうか。
そうでなくても金魚は他の魚にくらべて丸っこい印象があり、雑貨にするとかわいさが際立つのかもしれない。
この記事には、戦時中に「金魚を飼っている家には爆弾が落ちない」というデマが広まり、日本の金魚雑貨ブームを後押しした、なんて話も載っていて面白かった。
雑貨で思い出したのは山口県柳井市の名物、柳井金魚ちょうちん祭りである。青森県弘前市の金魚ねぷたのかわいさに惚(ほ)れた先人が弘前をまねて祭りに導入した、というエピソードを聞いたことがある。金魚の産地でもないのに祭りをやりたくなるほど、金魚は人の心に響く姿をしているということだろう。
先日散歩していると、公園でテントの下にたくさんの洗面器が並んでいて、年配の人たちが大勢覗(のぞ)き込んでいる場面に出くわした。何だろうと近寄ってみると、洗面器にはきれいな金魚が入っていた。
夏らしい暑い日だったけれど、ちょっとだけ涼しい気分になったのである。=朝日新聞2023年8月5日掲載