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周司あきら、高井ゆと里「トランスジェンダー入門」 語り合い始めるための一歩

 本書が非常によく読まれていると知って、トランスジェンダーに関心を持つひとの多さに驚いた。ほんの数年前には「トランスジェンダーです」と話しても、「トランジッター?」と聞き返されたりしていた。社会が大きく変わりつつあると感じる。

 ただ、関心が高まる一方で、少なからぬひとが「トランスジェンダーのひとにどう接したらいいのだろう?」と戸惑ってもいるのではないだろうか。だとしたら、本書が世に出たことには大きな意味があるはずだ。

 自分の子どもが性別違和を訴え、生まれたときに分類されたのとは違う性別で暮らし始めた場合、どうサポートしていけばいいだろう? 本書を開けば、トランスジェンダーの子どもが学校でどんな壁にぶつかるのか、就職に際してどんな苦労をするのか、客観的なデータをもとに解説されている。読むには辛(つら)い話も多いが、知識があれば多少は備えることもできる。
 友人が性別移行をし始めた。その友人は今後どう変わっていくのだろう? 性別移行の仕方は個々人で異なるものの、本書ではある程度包括的に性別移行の実際が説明されている。

 本書にはほかにも、基本的な用語や概念の紹介や医療や法律における扱いに関する解説もあれば、トランスジェンダーの権利回復運動とフェミニズムの重なりについての説明もあり、基本的な情報がみっちりと詰まっている。まさに「入門」と呼ぶに相応(ふさわ)しい内容だ。

 しかし、気をつけてほしい。本書はあくまで「入門」であって、トランスジェンダーの人々と語り合い始めるための最初の一歩に過ぎない。本当に重要なのはそこから先を歩み続けていくことなのだ。本書を読んでトランスジェンダーの人々と向き合う準備ができたら、勇気を出してさらに一歩踏み出し、トランスジェンダーの人々の言葉を実際に聞いてみてほしい。トランスジェンダーの人々はすでに同じこの社会にいて、その一歩を待っているのだから。=朝日新聞2023年8月26日掲載

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 集英社新書・1056円=1万8千部。7月刊。「これまでにない入門書。高齢者も含め幅広い層が手に取っている」と担当者。