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月刊「みすず」がWEBへ  9月スタート

 みすず書房のPR誌「みすず」が8月号で休刊し、9月1日にWEB「みすず」がスタートした。武井彩佳「国籍・国境・格差」や奥山淳志「あたらしい糸に」といった連載は毎月1日に、「新刊紹介/話題の本/コラム」は随時更新される。

 月刊「みすず」は、1959年4月の創刊。自社刊行物の書評などを含めて始まったが、宣伝的な要素は次第に薄まっていく。言論状況を注視する「デスク日記」や「朱筆」、外国メディアの記事を紹介する「海外文化ニュース」もあり、ほかに類例のない雑誌だった。連載の多くは本になり、近年では中井久夫、長田弘、小沢信男、外岡秀俊(いずれも故人)ら各氏の著書を思い出す。

 通巻728号となった休刊号には印象深い文章が並ぶ。「紙の雑誌」と「映画館」を重ねて考える「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督。政治と学問の「一九五五年体制」を論じ、後者を支えた出版・メディア・読者ら「広義の学術文芸コミュニティ」の一つにPR誌をみる、政治学者の犬塚元氏。本や雑誌をつくって、読む過程は「モノの手ごたえ」とつながっており、「忘れられた過去は消え去ることがなく、ある種の反復となって現在によみがえる」と書く精神分析家の藤山直樹氏……。

 毎年恒例の「読書アンケート特集」は書籍の形で続くという。紙の雑誌に携わり、休刊も経験した一人として、今後を見守りたい。(石田祐樹)=朝日新聞2023年9月2日掲載