- 最後の三角形
- 最恐の幽霊屋敷
- 中国の死神
世界幻想文学大賞をはじめ、英語圏の主要なアンリアル系文学賞の常連と化して久しい才人ジェフリー・フォードの第二短篇(たんぺん)集『最後の三角形』が刊行された。傑作揃(ぞろ)いの前作『言葉人形』に対して、「今回はSF、ホラー、ミステリなどの各ジャンルの色の比較的濃い(しかしあくまでもフォードらしい)作品を多く含むセレクションになった」と、編訳者はあとがきで述べている。
その特質は巻頭に収められた「アイスクリーム帝国」に明らかだろう。生まれついての共感覚の持ち主で、変わり者だが、音楽家としての卓越した資質を有する少年と、同じく並外れた画才を有する共感覚の娘。現実を超えた(ヴァーチャルリアル)世界での哀切な恋愛と、残酷な結末。
しかしながら、何といっても本書の白眉(はくび)は、「恐怖譚(たん)」(原題は「A Terror」)だろう。ニューイングランドが生んだ実在の大詩人エミリー・ディキンスンを主人公とする本篇は、随所にエミリーの詩を鏤(ちりば)めながら、詩人自身の筆になるかのようなスタイルで、奇妙な「死をめぐる禁断の物語」が綴(つづ)られてゆく。作中に登場する「魔女の家」のくだりでは、もう一人の偉大なるニューイングランダー(=H・P・ラヴクラフト)風の味わいも。
『影踏亭(かげふみてい)の怪談』やクトゥルー・ジャパネスクな『赤虫村の怪談』で注目を集める新鋭・大島清昭の最新作は、その名も『最恐の幽霊屋敷』。どこかで聞いた名前だなあ……と思ったら、『現代幽霊論』や『Jホラーの幽霊研究』の人でしたか!
栃木県の田園地帯に建つその広壮な邸宅は、忌まわしい歴史を秘めた幽霊屋敷で、除霊に訪れた霊能者たちが何人も命を落としていた。依頼をうけた探偵役と、某オカルト雑誌(ちなみに評者は「妖」という名の雑誌を創刊しかけたことがあったな……)の契約ライターは、謎の奥処(おくか)に迫ってゆくが。
ミステリ的な趣向はあくまで付けたりで、超自然一直線な行き方が素晴らしい!
最後に異色の一冊を。大谷亨『中国の死神(しにがみ)』は、「無常」と呼ばれる中国版の死神(民間信仰の神)を、若き中国民俗学者が現地踏査をして、知られざるその実態に迫った、興趣尽きない民俗ルポ。先日、日本の死神に関するアンソロジーを出した評者は、純粋な好奇心から本書に手を出したのだが、これが面白いのなんの! コックのような帽子をかぶり、長大な舌を出した異形ぶりといい、見るからに、著者のいう「ビビビッ」な感じに満ちている。
冒頭近くに掲載されている「ウルトラマンの卵」という一文を目にした貴方(あなた)は、二度と再び、著者の仕掛けた巧緻(こうち)な罠(わな)から抜け出すことができないだろうことを、私は確信するものである。=朝日新聞2023年9月27日掲載