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民族差別犯罪の歴史と現状伝える「ヘイトクライムとは何か」 高谷幸が選ぶ新書2点 

『ヘイトクライムとは何か 連鎖する民族差別犯罪』

 関東大震災から百年の今年、当時の朝鮮人・中国人虐殺に改めて関心が向けられた。鵜塚健・後藤由耶『ヘイトクライムとは何か 連鎖する民族差別犯罪』(角川新書・1034円)は、京都・ウトロ放火事件を皮切りに、今日頻発する在日コリアンらを標的にするヘイトクライム(差別的動機による特定の属性の人たちへの犯罪)の現状を伝える。その背景には、インターネットが差別の増幅装置として機能するとともに、根強い制度的差別や「官製ヘイト」の存在がある。ヘイトを克服する実践も紡ぎ出される一方、東京都知事や政府が震災時の虐殺という歴史的事実から目を背ける事態が、百年前の過ちと地続きのこの社会の姿を表している。
★鵜塚健・後藤由耶著 角川新書・1034円

『ガンディーの真実 非暴力思想とは何か』

 植民地支配や人種差別に抗(あらが)った世界の英雄の一人がマハートマー・ガンディーだろう。間永次郎『ガンディーの真実 非暴力思想とは何か』(ちくま新書・1034円)は、高名に比してその内実があまり知られていない彼の非暴力思想に迫る。それは、暴力の否定というよりも「真実にしがみつくこと」を意味する。人間の欲望を統制し、「真の自己」を追求するガンディーの思想と実践は、食、衣服、性、宗教、家族という日常領域でも展開された。その孤高の営みとそこに孕(はら)まれた矛盾を詳(つまび)らかにする。(東京大学准教授)
★間永次郎著 ちくま新書・1034円=朝日新聞2023年9月30日掲載