やさしくて強い、ふたりの“ライオン”の物語(井上將利)
10月のテーマは「幼なじみ」。切っても切れない腐れ縁~とか、気付けばずっと一緒にいる~とか、小さい頃からの時間を共有し続けたという絶対的な事実が生み出す深いつながり……とても好きです(笑)。
そして今回選んだのは、三田織さんの「ライオンハーツ」(プランタン出版)。三田さんの作品はなんと本連載3回目の登場です! 作者の淡く切ない作風は、私を含め多くのファンを惹きつける魅力があるんです。
【あらすじ】
小さい頃に結婚の約束をした幼馴染みの礼央と獅子丸。しかし、男の子同士は“いけないこと”と教わり、その気持ちに蓋をしたまま時は流れて、あれから10年――。高校生になった2人は別々の学校に通っているけど、帰り道はいつも待ち合わせ。ともに過ごすその時間が1日の中で一番の幸せだった。でもそんなある日、女子と歩く礼央を偶然見かけてしまった獅子丸。ずっと見ないように蓋をしてきた気持ちがざわめきだして……。
初恋で幼馴染み同士、これは2匹のライオンの物語。
CannaComics「ライオンハーツ」作品紹介より
あらすじだけで、すでにキュンキュンする気配が漂ってきますね。小さい頃に子供の口約束で「結婚する!」と言っていた礼央と獅子丸がその思いを胸にしまい込んで10年。別々の学校なのに帰り道を共にするほどの強い絆が感じられる2人でしたが、礼央に女の子の存在が見え隠れしたことでその絆が揺らいでいきます。
自分の礼央に対する想いは過去の思い出になってしまったのか、自分だけがこの想いを胸にしまい込んで持ち続けていたのか、僕らはただの“親友”になっていたのか……。そんな不安や疑問を1人で抱え込んで苦しむ獅子丸の姿が心に刺さりました。他人の感情という見えないものに翻弄される獅子丸でしたが、礼央の想いを確かめるきっかけが訪れます。自分だけの一方通行な想いではなく、互いに想い合っていたことが分かり、獅子丸はそれはそれでまた心をザワザワさせるのですが、茂みで何も言わずに手を繋ぐシーンでは2人の心がギュッとつながったような気がしてとても印象的な場面でした。
しかし、物語はこれでハッピーエンドとはいかず、まだまだ波乱の展開が……。そこは読んでのお楽しみですが、2人の今後に是非注目して頂きたいと思います。
そして最後に本作の表紙について、少し触れたいと思います。最近、キャラクターの表情がアップになっている作品が多い傾向にあると個人的に感じているのですが、この作品は逆に結構引きの構図なんですよね。しかも獅子丸は後ろ姿で顔は見えません。でも僕はこの表紙がとても好きです。獅子丸が後ろ手にタンポポを持つ姿が最初は健気で想いを隠す切なさを感じさせるのですが、読み終えてから改めて見ると2人が同じ方向に歩んでいく様が感じられて、獅子丸はきっと少し照れた表情で礼央を後ろから見守っているんだろうなぁと思えるのでした。
こんな作品に出合えて幸せでした! 是非、皆さんとも共有できたら幸いです!
恋心を捨てるため出た旅の果てに(原周平)
ずっと側にいた人がもっと特別な存在になるのって、きっかけはひょんなことからでも、培ってきた年月があるからこそ。幼なじみから恋人に、今回はそんな関係の変化を楽しめるこちらの作品をご紹介します!
m:m(むむ)さん「瞬きのエンドロール」(徳間書店)。
舞台はアメリカ、小さな頃から双子のように育ってきたリアムとルーカスの物語。ずっと抱いてきた密かな想いの片鱗をプロムで覗かせてしまった日から、気持ちに蓋をできなかったことを悔やんできたリアム。2人きりの卒業旅行は、そんなリアムの恋心を捨てる、覚悟の旅でもあったのでした。冒頭、ブレーキを踏まずに走り抜けるラスベガスへと向かうまっすぐな道と、あふれる想いを必死に抑えているぐっちゃぐちゃなリアムの心が対称的に感じて切なさが込み上げます……!
一緒にできる最後の旅と心を決めたつもりでも、ルーカスの表情や言動一つひとつに振り回されてしまう思春期真っ只中のリアム。無自覚なノンケの行動って、読んでる側の気持ちもかき乱しますよね(笑)……なんて思いきや、プロムのあの瞬間からルーカスも少しずつリアムのことを意識するようになっていたようで! いつも自分が助ける存在だと思っていたリアムの違う角度からの姿を見せられて、少しずつ気持ちに気付いていくのがいいですね〜!
こういったロマンティックな演出もアメリカの恋愛映画を見ているようで、アメリカっぽい雰囲気や会話と合わせて好きなシーンがたくさんあります。名作映画の小ネタが散りばめられているのも本作のプラスアルファで面白いところ! 僕は2つくらいしか分かりませんでしたが、映画好きの人ならさらに楽しめると思うので探してみてくださいね♪
旅の目的地にしていた海辺でのクライマックスもとっても気持ちが高まりました。積もりに積もった気持ちを正面からぶつけ合えて、よかったねリアム……‼︎ 幼なじみBLの好きなところの1つとして、過去の思い出話が2人の関係性の深さを感じさせてくれるところ。ちょっとしたエピソードの数々が、誰にも入り込む余地の無い、特別な関係の礎になってきたんだと思うと、ちょっと羨ましさにも似たような、素敵だな〜という気持ちになります。それでもお互い知らなかった一面をまだまだ知れるのが、また素敵ですよね!
18歳の2人の旅、人生では瞬きのような時間かもしれませんが、このロードムービーのエンドロールのその先も、信頼関係に溢れたカップルでいてくれそうで幸せになれる作品でした。