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加藤シゲアキさん「なれのはて」 絵画の謎を追うミステリーに盛り込んだ「戦争を語り継ぐこと」

加藤シゲアキさん

 アイドルグループ「NEWS」のメンバーで作家の加藤シゲアキさんが新刊「なれのはて」(講談社)で描いたのは、一枚の絵が持つ記憶をたどるミステリーだ。

 2020年に刊行した小説「オルタネート」は、吉川英治文学新人賞や高校生直木賞を受賞した。「作家として注目してもらえるようになったいま、中途半端なものは書けないという思いが強まった」と加藤さんは語る。「今作はいま自分が読みたいもの、そして書くべきものに吸い込まれるようにして完成にたどり着きました」

 主人公の守谷(もりや)京斗は、30代半ばのテレビ局員。入社以来所属していた報道局から、訳ありでイベント事業部へ異動となる。展覧会やライブ、演劇といったイベントを主催する部だ。

 指導役となった後輩社員、吾妻李久美(りくみ)が祖母の遺品だと言って見せた一枚の絵に、守谷は引き付けられる。「ISAMU INOMATA」というサインがあるがイサム・イノマタという画家の名は知られておらず、著作権者もわからない。だが、誰しもが胸をつかれる作品だと守谷は確信する。この絵で「無名の天才」と題した展覧会を開こうと考え、吾妻とともに絵の謎を追う。

 作品には、加藤さんの母親の出身地、秋田を襲った土崎空襲のことも盛り込む。終戦前夜に爆弾が投下され、250人以上が亡くなった。日本最後の空襲と呼ばれる。

 エンタメ小説に戦争の話を盛り込むことには葛藤もあった。「戦争を物語の装置として使っているのではないか、という批判もあると思います。でも、数字で伝わらないものを伝えられるのが物語の力。虚構をまとうことでリアリティーを感じてもらうことができる。体験者が減っていくなかで戦争を語り継いでいくことは、作家としての責務なのではないかという思いもありました」

 12年に「ピンクとグレー」で作家デビューした。「アイドルから作家になった僕をあたたかく迎えてくれた文芸界に感謝している。恩返ししたいという気持ちをずっと持っています」

 作品では人間の醜さもあぶり出す。アイドルの顔とは異なる一面だ。「執筆中にアイドルの意識が働くと、ときに保身に走ってしまう。それは不誠実です。だから、これはアイドルとしてまずいな、と思って表現を変えたりやめたりしたことは一度もありません」(田中瞳子)=朝日新聞2023年11月8日掲載