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「無人島ロワイヤル」書評 嫌らしさと純粋さ 自分なら?

評者: 藤田香織 / 朝⽇新聞掲載:2023年11月18日
無人島ロワイヤル 著者:秋吉 理香子 出版社:双葉社 ジャンル:小説

ISBN: 9784575246834
発売⽇: 2023/10/18
サイズ: 19cm/261p

「無人島ロワイヤル」 [著]秋吉理香子

 「もし無人島に行くとしたら、何を持っていく?」は、無難で万能な社交暇ネタだ。会話を広げるきっかけになる上に、状況によっても答えが変わるため話も続く。回答者の意外な趣味嗜好(しこう)、性格などが露呈するから場も盛り上がる。
 本書に登場する八人は、行きつけのバー「アイランド」のカウンターでこの話題に興じていた。「無人島に三つ持っていくとしたら」。ある者は〈望遠鏡と、ウイスキーと、クラシック音楽〉と答え、それならスマホでいいのでは、いやむしろたった一枚のアナログレコードを聴きこむのが贅沢(ぜいたく)でいい、と会話が弾む。いいよなあ無人島。逃避したい。あくまでも想像でしかない、酒の席での気楽さで八人は好き勝手に言い合っていたが、そこへマスターが「――俺、無人島、持ってるよ」と言いだし物語は急展開していく。
 日数は設定せず、各々(おのおの)の感覚で決める。服装は三つに数えない。ルールを決めるマスターと八人に、自分だったらどうするか、想像するのがまず楽しい。
 しかし、そうして訪れた天国さながらの無人島で、思いがけず彼らは生き残りをかけた壮絶な地獄のバトルロワイヤルを課されることになるのだ。
 天然我儘(わがまま)なお嬢様と逆玉が約束された婚約者。全てを記録しようと機材を持ち込んだユーチューバー。釣りが得意な元ラガーマン。サバイバルゲームマニアの公務員。理系知識が豊富な塾講師。キャンプ好きな大学生。落ち着きのある四十代の医師。
 そんなことになるとは夢にも思わず持参したアイテム+知力と体力と人間力の闘いは、エンターテインメント小説としての刺激に満ち、十分に楽しめる。が、そこに『暗黒女子』『婚活中毒』『自殺予定日』といった著作でも感じられた、人間のもつ嫌らしさと純粋さが混じり合い、読者に再びの「あなたならどうする?」を問いかけていく。
 意外な毒にも要注意!
    ◇
あきよし・りかこ 2008年に「雪の花」でYahoo! JAPAN文学賞。著書に『聖母』『月夜行路』など。