猫だからこそ表現できる、優しくてゆるい空気感
――ふくよかでちょっとシュールな猫たちが、洋食屋さんで繰り広げる“猫模様”がユニークな『ねこのようしょくやさん』(金の星社)。周囲にいる猫たちの個性をうまくとらえて、物語として描いているのは、現在2匹の保護猫を飼うKORIRIさんだ。SNSなどに猫のイラストをあげているうちに、ファンの方に薦められてLINEスタンプや絵本を描くようになったという。
絵本の『ねこのようしょくやさん』を出す数年前に描いたのが、その元となる「世にも不思議な猫世界」シリーズです。最初は、先代猫のニャン子さんや、Instagramを通じて知り合った猫さんたちのイラストを描かせていただき、SNSに投稿していました。あるとき「LINEスタンプにしてみてはどうですか?」というコメントをいただき、そこから「世にも不思議な猫世界」のLINEスタンプが誕生しました。モデルの猫たちが、人間のように生活していたらどんな風かなと想像を膨らませながら描いたイラストです。イラスト作品集も出版しました。
その世界には、洋食屋さんやラーメン屋さんなど猫が営むさまざまなお店屋さんが登場していました。なかでも洋食屋さんは、子どもたちにも大人の方にも親しみがあり、絵本にしたら楽しい作品になるんじゃないかなと思ったんです。我が家の猫たち(春男とみかん)が店主でもあり、自分自身もより親しみやすい題材かなと思いました。猫だからこそ表現できる、優しくてゆるい空気感が気に入っています。
洋食屋さんにいたらかわいい猫たちをモデルに
――絵本に出てくる「ハルオ」と「みかん」は、絵本の中では一緒に洋食屋を経営するシェフ。猫のふみふみを利用した生地で、ハンバーグをつくってふるまっている。ところがお客さんに出すお皿をみかんがつまみ食い! でもハルオは優しく許してくれる。このシーンは、実際の2匹の性格そのものが現れているという。ほかにも出てくる猫たちにはモデルがいて、絵本の中でその特徴を生かしながら描かれている。
みかんは、マイペースでとにかく食いしん坊です。春男に対しては少々強引で遠慮がなく、甘え上手でおねだり上手な女子です。春男は、そんなみかんのマイペースさを優しく受け止める寛大な男子です。実際に、みかんは春男のごはんをよくつまみ食いするのですが、春男は怒らず毎回ゆずってあげます。そんな2人の関係が愛おしくてストーリーにもりこみました。みかんの口をハルオシェフが優しく拭いてあげているシーンは、私が日々憧れている、猫の「マイペースさ」と「優しさ」が詰まったページで気に入っています。
ほかにも、Instagramで知り合った猫ちゃんや一目惚れした猫ちゃんたちにモデルになってもらいました。直感的に「洋食屋さんが似合いそうだな」「この子が洋食屋さんにいたらこんな風だろうな、かわいいだろうな」と思い登場していただいています。どれも「世にも不思議な猫世界」の中の「洋食ハルオ」のイラストの時にも登場してもらっている猫ちゃんたちです。無意識のうちに、みんなふくふくむっちりボディになってしまいますが(笑)、モデル猫さんたちのチャームポイントをきちんと表現できるようにこだわっています。
まねしたくなるかわいさが子どもにも人気
――KORIRIさんの独特の猫の描写は微笑ましく、書店に並んでいる表紙を見て、そのなんとも言えない表情にひかれて買ってしまう人も多い。手に取らずにはいられない引力がそこにある。しかし猫好きばかりに受ける本というわけでもない。身近な食べ物の絵本でもあり、親子で楽しんでいるお手紙もよく送られてくるそう。
読者の方からの感想では、お子さんが「もぐもぐごっくん」と絵本のまねをしてくれたり、ご家族の会話の中で「みかんちゃんみたいに、もぐもぐごっくんしてね」など、絵本にまつわるやりとりがあったりするというお話もお聞きしました。その光景を想像するだけでかわいらしくて温かくて癒されます。
また、「背景の細かいところを見るのが楽しいです」と言っていただけたのは、自分がこだわっている所でもあったので嬉しかったです。実は、入口横にある「ごじゆうにおめしあがりください」と書かれた猫草が、ちょっとずつ減っていっているところも、隠れた見どころなんですよ。
――『ねこのようしょくやさん』から1年ごとに新しいシリーズが発売され、続編の『ねこのラーメンやさん』『ねこのすしやさん』(いずれも金の星社)も人気が高い。どちらも「世にも不思議な猫世界」に登場するお店で、おなじみのふくふくした猫とおいしそうなシーンがたまらない。
『ねこのラーメンやさん』では、店主のマオさんが鰹節を豪快にバリバリ研ぐ場面とお客さんみんながおいしそうにラーメンをすする場面が気に入っています。『ねこのすしやさん』では、おすしを楽しみにオシャレしてきたお客さんたちのファッションと、裏キャラのタコさんに注目してみてください。
猫たちの普段のさりげない仕草や、かわいくておもしろい行動などからアイデアが浮かぶことが多いです。これからも、猫らしさがつまった、ゆるくて優しくて、読んでくださった方がクスッと笑えて、ホッとできるような絵本を作っていきたいです。