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こいしゆうか「くらべて、けみして 校閲部の九重さん」 マニュアルなき文芸校閲のリアル

 「酒落た」「訣らない」「すざまじい」――。こんな言葉に出くわした時、文芸校閲者ならどうするか。漫画『くらべて、けみして 校閲部の九重(くじゅう)さん』(こいしゆうか著)は新潮社校閲部に取材し、本作りの裏方たちのリアルな日常を描いた。

 作中で紹介される校閲の仕事は、誤字脱字の点検にとどまらない。月の満ち欠けは現実の暦と合っているか。登場人物の性格は、過去の場面と矛盾していないか。本作を企画した編集者の渋谷(しぶたに)祐介さんは、他の出版社から新潮社に転職してきた2年前、初めて担当した小説のトリックの齟齬(そご)を「疑問出し」されて驚いたと話す。「読者の信頼は金で買えない。しっかりした校閲があるから、安心して読んでもらえるんだなと」

 一方で、あえて疑問を「出さない」判断も、校閲者にとっては重要なのだという。表記揺れや辞書にない言葉も、意図的な表現かもしれない。著者の作風や性格も考え合わせ、最大限に原稿を尊重する。「作家が10人いれば10通りの感覚がある。マニュアルは作れないから、呼吸で感じるしかない」と渋谷さん。

 完成した本の奥付に校閲者の名前が載ることはない。「見えない所で努力している人って、世の中にいっぱいいる。そういう人にこの本が届いてほしい」(田中ゑれ奈)=朝日新聞2024年1月20日掲載