大豪邸や奇抜なデザインの家を見て「中はどうなってるんだろう」と思う。そこまでならばよくある話。が、小学3年生の道生(みちお)は果敢にチャイムを鳴らし、「お家を見せてください」とお願いする。お礼は彼がお菓子の中で一番おいしいと思っている「チョコDEパイ」。そうやって見せてもらった8軒の家の話と後日談を詰め合わせた連作集である。
大御所小説家の立派な庭付き日本家屋、こだわりのツタに覆われた家、ミニマリストの狭小住宅、おばあちゃんのゴミ屋敷、同級生のゴージャス洋館、手作り感あふれるシェアハウスなど、登場する家はどれも個性的。建築用語を口にしながら興奮気味に見学する道生の姿に、家主たちの頬もゆるむ。シンプルな線で描かれるキャラの表情もいい。
住まいにはその人の人生が表れる。母と二人で団地暮らしの道生にとっては世界が広がる体験だが、家主たちの心にも新しい風が吹き込む。言葉遣いは大人びて丁寧なのに、時に子供らしい正直さで図星を突いてくる道生のセリフにハッとさせられることもある。
家も人も外から見ているだけではわからない。道生のように勇気を出して扉をたたいてみることが理解の近道なのかもしれない。=朝日新聞2024年1月20日掲載