BL担当書店員が選んで語る！ マイベストBL３選【2023年】
井上將利が選ぶマイベストBL３選【2023年】
芹澤 知「ホワイトライアー」
マイベスト中のベストとしては2023年はもうこの作品で間違いないと思ってます！
【あらすじ】
28歳、美容師として働く慧は、過去の恋愛のせいで人間不信ぎみ。
長らく本気の恋から遠ざかり“遊び相手＜オトモダチ＞”とその場の熱を分け合ってきた。
ある日、仕事で超人気俳優・大河を担当することに。
不愛想に見えた大河だったが、カットが終わると人懐っこく豹変して――？
「慧の匂い、落ち着く」
急に近づく距離感、熱っぽく呼ばれた名前。流されるまま関係を持ってしまう。
これまでの“オトモダチ”とは違う大事そうに見つめる視線も触り方も、芝居だったとしたらタチが悪い。
そう思うのに、知ってしまった体温は簡単に手放せるものではなくて……
「ホワイトライアー」作品紹介より
芹澤知先生の作品はどれも完成度がめちゃくちゃ高いんです。内容もテイストも違うのに、全部ちゃんと素晴らしいというのはもう本当にすごいとしかいえません。世界観はもちろん、何よりキャラクター作りが本当に素晴らしくて、登場人物の人間性や個性、思考回路をすごく緻密に作り上げられていて、作品の中ですごく生き生きとしているんです。この作品も慧と大河のキャラクターがしっかりと描かれていて、彼らの言葉や行動は読んでいてスッと腹落ちします。
“オトモダチ”っていう遊びの関係なんですけど、慧がそこから一線を踏み越えないように必死に気持ちにブレーキをかけ続ける場面がいっぱい出てきます。本気の恋に踏み出す怖さや臆病さみたいなものが表れていて、「遊びだから」と自分に言い聞かせるようにしている感じが読んでいてちょっとキリキリしつつも、見どころになっています。
いよいよ「俺と遊んでないで ちゃんと恋愛した方がいいよ」と慧が大河を突き放すシーンがあるんですけど、それが本当に印象的です。大河は後ろ姿しか描かれてなくて、慧の表情だけで読ませるという一場面。後々、大河は相手を映す鏡みたいな存在だ、という描写があるんです。つまりは、そのときの大河の表情というのは、まさに慧の表情そのままだったと考えると、慧はすごく引きつった笑顔をしていたんですよね。感情の置き所がわからなくなって、感情と行動が矛盾しているのが表情に出てしまい、それを自分自身に見せつけられるという構図。芹澤先生の真髄が発揮されています！
この作品は読み終わるとミステリアスだった大河の人となりが理解できるので、もう1回頭から読み始めると最初と作品の雰囲気がガラッと変わってきます。そこもすごく面白いので、ぜひ皆さんに二度読んで楽しんでいただきたいです。
＞＞井上さんによる「ホワイトライアー」の詳細レビューはこちら
BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2023」
らくたしょうこ「レンタルタマちゃん」
表紙とタイトルからレンタル彼氏的な話かなと思ったのですが、そこからは思い描ききれない、いい意味で予想外な作品です。
【あらすじ】
朽ちる町。変化はやってくる。
日々寄せられる住民の不満に疲弊する町役場の役人・矢澤は、癒やしを求めて「ねこレンタル」を利用することにした。 サービスに来たのは猫耳しっぽをつけた人間の“タマ”だった。
人間とわかっているのに、タマと過ごす時間は矢澤にとってかけがえのないものになっていく。
なぜ傷だらけの身体で、なぜこの仕事をしているのか？
本当のタマのことは何も知らなくて……
愛しいと、最期に思える存在。あなたにはありますか？
「レンタルタマちゃん」作品紹介より
まず、社会保障が廃れて貧しい地域では生きていくのが大変という、どこかリアリティのある仮想の世界という設定が面白いです。そして、そんな世界観で、癒しを求めて「ねこレンタル」を頼んだら、来たのが猫耳としっぽをつけたかわいい青年だったっという話の振り幅もすごい。ファンタジーだから、タマちゃんはもしかして獣人なのかなとも思ったんですけど、プロの猫だったという（笑）。
最初こそ、矢澤さんも読者も困惑しますが、タマちゃんの身のこなしや動きを見てプロの猫だと受け入れ、プロのお客さんとしてタマちゃんと遊ぶ矢澤さん。互いのプロ根性を見せつけられ、読者も納得せざるを得ません。レンタル中の2人だけの空間がめちゃくちゃ尊くて、とても愛らしい時間を過ごしていて、そんな2人の時間がずっと続けばいいのにと思うんですが、だんだんタマちゃんの素性が見え隠れしてくると、そうも気楽には捉えられなくなります。
ヤクザが裏にいたり虐待の過去があったりと、人に大事にされた経験がないタマちゃん。初めて矢澤さんに大事にされ、愛情を受け取ることで2人の関係がすごく温かいものになっていく過程が見どころです。最初はお客さんだった矢澤さんが、タマちゃんにとって救済者に変わっていきます。しかも、この2人ってほとんど会話をしてないんです。言葉なくして2人が愛情を伝え合い、関係を築いていく過程を描いているのが、この作品の何よりもすごいところ。そしてラストは「そう、きたか！」という感じで終わります。表紙からは想像できないぐらい、いろんな感情をもらえる作品なので、そこはぜひ皆さんに読んでほしいです！
広田「恋人がウブすぎて困る」
【あらすじ】
クラスの陽キャ・日山に突然告白された地味な男子高校生の長谷川。
「付き合うってなにするの？」と聞く長谷川に、日山が提案したのは交換日記だった。
想定外の純粋さに驚きつつも、長谷川は告白を受け入れる。
教室で話すこともなかったふたりがゆっくりと距離を縮め恋を知る、うぶピュア同級生青春BL――!!
「恋人がウブすぎて困る」作品紹介より
広田先生のデビューコミックス。「心が元気になるBL」マイベストです。恋人同士になった高校生2人の、ウブすぎて困るエピソードがいっぱい詰まっています。
表紙をパッと見ると、黒髪の長谷川くんの方がウブなのかなと一般的には思うんでしょうけど、BLをよく読まれる方は間違いなく茶髪の日山くんがウブだろうってなりますよね。案の定その通りで、日山くんにとって「お付き合いをする」ことは、紙の交換日記から始まるっていう、この尊さよ！（笑）
自分が書いた部分を長谷川くんがちゃんと読んでいるかなと、気になって気になってしょうがない日山くん。授業中もすごいキョロキョロしてるんですよね。そして書いた内容も「今日一緒に昼飯食わない？」っていう、このかわいさ！
日山くんはメンタルがガラスで、ちょっとした長谷川くんの言動に振り回されがち。でも基本はクールでかっこいい男の子で、恋心だけがものすごく幼いというギャップがいいんです。一方、長谷川くんはちょっと天然が入っていて、無意識に距離を詰めに行っちゃったり、日山くんがしれっと言ったことで刺激しちゃったり傷つけちゃったりするんですけど、日山くんのビジュアルと内面のピュアな恋心のギャップにドキドキしちゃってるのがかわいいんです。
「恋人がウブすぎる～」というタイトルは、日山くんのことを指しているんですけど、個人的には長谷川くんも含めて2人ともウブすぎるなと。でも、だからこの作品は面白いんだと思います。イチャイチャじゃなくて、イチャイチャの一歩手前。イチャイチャに至るまでの過程を死ぬほど堪能できるという、実はありそうでないBL作品。初々しい2人が尊すぎる1冊です！
井上さんの熱い語りを音声で！
