- 『アンソーシャル ディスタンス』 金原ひとみ著 新潮文庫 781円
- 『コロナと潜水服』 奥田英朗著 光文社文庫 770円
- 『旅する練習』 乗代雄介著 講談社文庫 704円
単行本刊行された小説が文庫化されるのは通常、三年後が目安。そのため昨年末から今年頭にかけて、コロナ禍を小説の題材に取り入れたアーリーアダプターたちの作品が一挙に文庫化されることとなった。
(1)は著者が得意とする(破滅的な)恋愛小説集だが、表題作にあたる第四編と第五編はコロナ禍一年目に発表された。同居家族以外との接触が社会的に禁じられ、いわば恋愛禁止の様相を呈していた時期の若者たちの鬱屈(うっくつ)。未知のウイルスをどう恐れるかという態度によって炙(あぶ)り出された価値観の違いが、恋人たちを分断したこと。恋愛関係の中に、当時の空気が真空パックされている。
日常にほのかなファンタジーが混じり合う短編集(2)の表題作は、着ぐるみを防護服がわりに着用して外出した……という海外のニュースがおそらく着想の出発点。そのファニーな現実を元に、コロナウイルスを感知する能力に目覚めた五歳の息子と、家族を守るため奮闘する父の物語に変換させた想像力が素晴らしい。
(3)はコロナ禍で小学校が臨時休校となった二〇二〇年三月、サッカー少女の姪(めい)っ子を誘い、小説家の叔父が二人旅に出る。千葉県の我孫子から贔屓(ひいき)のサッカーチームの本拠地がある茨城県の鹿島へ、徒歩で。ポカーンと予定が空いてしまったからこそできた、無為の旅の豊かさたるや。ラストの衝撃が、その豊かさに更なる強度を与えている。
約三年前の日本はこんなふうだった。ならば今は? その距離感も含めて楽しみたい。=朝日新聞2024年2月3日掲載