1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 戦後日本の安全保障の多層性浮かび上がらせる「在日米軍基地」 詫摩佳代が選ぶ新書2点

戦後日本の安全保障の多層性浮かび上がらせる「在日米軍基地」 詫摩佳代が選ぶ新書2点

『在日米軍基地』

 世紀のパンデミックから新たな戦争の時代に移ったとしばしば言われるが、より長い時間軸で見れば、我々が変わらぬ課題に直面していることも確かである。川名晋史『在日米軍基地』(中公新書・1210円)は、日本に駐留する米軍の二面性――米軍と国連軍――をめぐり、その法的根拠の変遷と連続性、安全保障上の課題について一次史料を駆使しつつ解き明かす。本書を通じ、例えば鳩山由紀夫政権下での基地移設計画の頓挫など米軍基地にまつわる疑問が一つずつほぐれていき、戦後日本における安全保障の構造の多層性が浮かび上がる。爽快でさえあると同時に、在日国連軍の問題に関しては民主的統制が欠如してきたという著者の指摘は重く響く。
★川名晋史著、中公新書・1210円

『感染症の歴史学』

 飯島渉『感染症の歴史学』(岩波新書・946円)は、新型コロナのパンデミックを天然痘やペスト、マラリアといった感染症とともに歴史学のなかに位置づけようとする試みである。新型コロナの流行もヒトの生活領域の拡大に伴ってのことだった点など、過去の感染症との連続性を随所に見いだすことができて興味深い。著者は、感染症が世界を変えたのではなく、感染症の衝撃で人間が社会を変えたと指摘している。2冊いずれからも、歴史は未来への示唆に富むことを改めて認識させられる。
★飯島渉著、岩波新書・946円=朝日新聞2024年2月10日掲載