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回族の視点から紐解く「イスラームが動かした中国史」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『イスラームが動かした中国史』 海野典子著 中公新書 1430円
  2. 『朝鮮の王朝外交 “ややこしさ”からの気づき』 森平雅彦編 集英社新書 1166円

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 最近、東京で豚肉や酒を使わないハラール中華料理店が増えている。これは、中国に2千万人以上住むムスリム(イスラーム教徒)の半数ほどを占める回族の食文化だ。7世紀以降移り住み、中国に土着化し、漢語を日常的に話すムスリムを指す回族。中国・中央ユーラシア近現代史家による(1)は、ムスリム、特に回族の視点から中国史を紐解(ひもと)く。回族は差別や弾圧に直面しつつ、中華文明を柔軟に受容し、出身地の風俗と融合させながら、中国社会の内部で独自の宗教的コミュニティーを築いてきた。彼らの姿は、中国やムスリムについてのステレオタイプを相対化し、社会の内に潜む多様性のありようを考えさせてくれる。歴史の中で苦闘した一人一人のムスリムの実像に肉薄する筆致が印象的だ。

 日本の隣国だった朝鮮半島の歴代王朝は古代以来、中国を中心とする国際秩序に従いつつも、北方民族や日本とも複雑な関係を築いてきた。従来は主体性に欠けるといった偏見が投げかけられることも多かった。これに対し、7人の歴史家による(2)は古代以来、シビアな情勢下で王朝がいかに現実主義的な対応を貫いたか、そのリアルな姿を描き出す。最新研究に基づく通史が平易に解説されるほか、当時の国際関係が図示され、歴史に詳しくない人でも読みやすい。大国中心の世界史像に潜む偏見を打破し、朝鮮史の側から新しい東アジア史の姿を浮かび上がらせる。(1)とともに東アジア、さらには世界の見方を変えてくれる一冊だ。=朝日新聞2026年2月7日掲載