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意外な着地を見せる青春ミステリ「7月のダークライド」 若林踏が薦める新刊文庫3点

  1. 『7月のダークライド』 ルー・バーニー著、加賀山卓朗訳 ハーパーBOOKS 1230円
  2. 『検察官の遺言』 紫金陳著、大久保洋子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1232円
  3. 『黄土館の殺人』 阿津川辰海著 講談社タイガ 1320円

 (1)は痛切な犯罪小説である『11月に去りし者』で読者の注目を浴びた著者による青春ミステリだ。寂れた遊園地で働く二十三歳のハードリー・リードは、煙草(たばこ)の火傷(やけど)痕が体に残る幼い姉弟と出会う。虐待を疑った彼は児童保護サービスに通報するが頼りにならず、ハードリーは自ら探偵まがいの調査を始める。非力で堕落した印象の若者が、幼い命のために奮闘するなかで変化していく様子が温かさと切実さが混じり合う筆致で描かれていく。私立探偵小説風の展開から意外な着地を見せる終盤に目を瞠(みは)った。

 (2)は〈官僚謀殺〉シリーズなど中国社会の暗部を描いたミステリを中心に日本でも紹介が進む著者の作品。地下鉄の駅で遺体を詰め込んだスーツケースを運んでいた男が逮捕される。男は著名な弁護士で、遺体は検察官で男の元教え子でもあった。男が公判で供述を翻したため再捜査が行われるが、そこで驚くべき事実が明かされていく。過去と現在を往還しながら見えてくるのは、中国の社会に潜む邪悪な力だ。そうした社会派小説としての興味を掻(か)き立てつつ頁(ページ)を捲(めく)らせる。

 (3)は密度の高い推理と名探偵の存在意義を巡るドラマで毎回唸(うな)らせる〈館四重奏〉シリーズの三作目。今回は土砂崩れのために孤立した「荒土館(こうどかん)」が舞台となり、探偵とワトスン役が引き離された状況で物語が展開する。様々なミステリの型を盛り込みつつ、それを最終的に犯人当ての構造へ綺麗(きれい)に嵌(は)め込んでいく過程に巧みな技が使われている。=朝日新聞2024年3月2日掲載