道路標識とは、「一時停止」や「進入禁止」といった規制や指示を、ドライバーや歩行者に一目瞭然、分かりやすく伝えるために記号化されたものだろう。でも、この本に紹介されている“矢印標識”は、目にした瞬間に「ん!」とブレーキを踏んでしまいそうな、ややこしい連中ばかりだ。
どちらに進めばよいのか、これじゃあ戻ってしまうかも、こんなに分かれているの、などと思わずにいられない。「指定方向外進行禁止」という標識のなかの、筆者が「異形矢印」と呼ぶタイプだ。
本書では、全国を旅して集めた約200種を紹介している。「奇態型」や「予告型」「急角度型」などと分類されているうえ、一つ一つに「欲張った結果……」「洗濯日和」といったコピーが付けられている。
まじめなはずの標識が、ときに笑いを誘う奇妙さを備えるのは、そもそも分岐や異様な形の交差点が多い道路の実態や、立体交差までを平面で表現しようとするからだろう。つまり、どこまでも愚直。寡黙に路傍にあり続けていると思えば、けなげにみえてくる。=朝日新聞2024年3月2日掲載