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高田純次さん「最後の適当日記(仮)」インタビュー 「9割5分嘘」のいい加減

高田純次さん

 適当は最強の免罪符である。

 還暦を機に16年前に出版した『適当日記』に出てきたテーマと驚くほど変わっていない……。車のタイヤをスタッドレスに交換するか否か、イボ痔(じ)、老いと下半身事情。あまつさえ、何日か分は前作と全く同じ文章をつづっている。老いては知恵がつくという一般常識をすり抜けるのが日本一の適当男なのだ。

 「毎日そんなに新しいことはないし昔のことなんてみんな覚えていないんだから、前の日記をそのままタイトル変えて出しゃいいじゃないって編集者には言ったんだけどね」

 紙と電子版あわせて20万部のベストセラーだった前作から最も変わったことと言えば、大谷翔平の活躍にしつこく言及することだ。本の4分の1は大谷。「いや、本当に彼はすごいよね。だからオレも練習して大谷のサインをほとんど同じように書けるようになったよ」

 愛人とすしをつまむ話だのバイアグラをのむ話だの、「普段から、9割5分嘘(うそ)」と書く男の日記は、どこまで真実か分からない。「今日の取材で話していることだってほとんど嘘だよ。でも本当のこと言っても嘘だと思われちゃうんだ」

 スケベな話も尾籠(びろう)な話も書くが、不思議と不快にさせない。下品に転落しないすれすれの所を歩いている。読めば納得する。アングラ劇団から芸能界に入り約45年。テレビで裸になったり散歩したりしながら、いい加減なキャラで独自の地位を獲得した男は、「程度がほどよいこと」という「適当」の語義を見事に体現してきたのだと。

 「オレにだって、心はあるよ。ないのは、『暖かいハート』と、『人を思いやる心』だね」「ケツ丸出しなんて恥ずかしくないよ。この年になると顔丸出しのほうがきついよね」。日記の言葉を忍び笑いでかみしめる。(文・木村尚貴 写真・菊池康全)=朝日新聞2024年3月9日掲載