- 『夏目漱石ファンタジア』 零余子(れいよし)著 ファンタジア文庫 792円
- 『お梅は呪いたい』 藤崎翔著 祥伝社文庫 792円
- 『スペース金融道』 宮内悠介著 河出文庫 968円
俗に、笑わせるのは泣かせるより難しいと言われる。確かに、小説を読んでいて笑えると、得した気分になる。見つけた、という感じがするからだ。
ライトノベルの老舗新人賞大賞受賞作の(1)は、自由のために戦う武装組織・木曜会を束ねる夏目漱石が暗殺されるも、森鷗外&野口英世の手により、樋口一葉の肉体に脳移植されて復活を遂げる……という幕開けから「ばっかばかしい!」の嵐。「月が綺麗(きれい)ですね」のフレーズでここまで笑わされたのは初めてだ。日本近代文学史のファクトを大幅改変した小ネタは密度満点、作家ばかりを狙う連続殺人犯の正体を探るミステリーも盤石で、ぐいぐい読ませる。
元お笑い芸人という経歴を持つ著者の(2)は、五百年ぶりに封印を解かれた呪いの人形・お梅が七転八倒する物語。思う存分呪ってやると意気込むものの、やることなすことことごとく人々の運命を好転させてしまう。現代と戦国時代とのギャップに慄(おのの)くお梅の一人語りが、スベリ芸の様相を呈しているのはご愛嬌(あいきょう)か。
(3)は人類最古の植民惑星・二番街の街金で働く「ぼく」が、サディスティックな上司に小突かれながら、債権回収のため冒険の限りを尽くすSFコメディー。求められればアンドロイドや人工生命に金を貸し、返済期日を過ぎたなら宇宙へ飛び出しどこまでも取り立てにいく、主人公の受難の日々は笑えて、なおかつ感動できる。喜怒哀楽すべてが出揃(そろ)った、数々の文学賞受賞歴がある著者の裏ベストだ。=朝日新聞2024年3月9日掲載