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山崎元「経済評論家の父から息子への手紙」 真実を突く経済論と人生論

 お金、人生、幸せ、これらは生きる上で誰しも欠かすことができない。本書は大学生の息子に宛てた著者の手紙の内容を起点にした、著者の日本経済論・人生論である。

 本書の特徴は大きく二つある。一つ目の特徴はいかに働き・稼ぐかという個人レベルのミクロの経済活動から、現代の経済社会において稼いだお金をいかに効率的に増やしていくべきかというマクロの経済活動を含む著者の日本経済論が語られている点だ。「安定した職を得て労働を高くかつ長く売る」という働き方は崩壊し、これからは適度にリスクを取り他人と異なることを恐れずうまく稼ぐのが重要だと著者は言う。これは12回の転職を繰り返しながら自身のキャリアを磨いてきた著者だからこそ言える話だ。

 そして適度にリスクを取るというのは株式で、もしくは株式に連動する形で報酬を得るということである。また効率的に稼ぐには、リスクを取りたくない人からリスクを取っても良い人が利益を吸い上げる仕組みである資本主義経済の本質を理解することが必要だ。

 経済は「適度なリスク」を取る人間によって有利にできている、生活資金は常に確保せよ、資産運用のエッセンスは「長期」「分散」「低コスト」、保険とは「損な賭け」である等々、本書でも身も蓋(ふた)もない真実を冷静に突く「山元(やまげん)節」は健在であり、読んでいて心地よい。

 お金を稼ぐのは良い人生を送るための手段であり、幸せになるためだ。二つ目の特徴は山崎流の人生訓、幸福論である。モテる男になれ、友達を大切にせよ、上機嫌で暮らせ、これらに愚直に取り組みつつ、うまく働き・稼ぐことを実行すれば人生は大いに楽しいものになるだろう。

 人生は誰にとっても有限だが、本に遺(のこ)された著者の言葉は永遠に人の心に残る。本書のもう一人の主人公である息子さんの人生が実り豊かなものにならん事を。山元さん、また美味(おい)しいお酒をご一緒しましょう!=朝日新聞2024年3月16日掲載

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 Gakken・1760円。5刷・7万部。2月刊。著者が1月1日に死去。「著者の最後の書き下ろしとして注目された」と担当者。