1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 謎に満ちた大富豪・赤星鉄馬の生涯を緻密に追う「歴史に消えたパトロン」 安田浩一が薦める新刊文庫3点

謎に満ちた大富豪・赤星鉄馬の生涯を緻密に追う「歴史に消えたパトロン」 安田浩一が薦める新刊文庫3点

  1. 『歴史に消えたパトロン 謎の大富豪、赤星鉄馬』 与那原恵著 中公文庫 1430円
  2. 『食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む』 宮下規久朗著 光文社未来ライブラリー 1320円
  3. 『ナチズムの記憶 日常生活からみた第三帝国』 山本秀行著 ちくま学芸文庫 1650円

 (1)「赤星鉄馬とは何者(なにもの)ぞ 人を驚(おどろか)す豪奢(ごうしゃ)の生活」。大正期、新聞はこう書いた。歴史に名を刻む大富豪だが、表舞台に立つことを好まなかった。

 実業家にして釣りやゴルフに長(た)けた趣味人。米国からブラックバスを持ち込んだ人物でもある。そして、文化、学問の普及に惜しみなく金を注(つ)ぎ込んだ。日本初の学術財団「啓明会」を設立し、女性史、琉球芸術、アイヌ文化などの研究を援助した功績は大きい。人のために資産をすり減らし、静かに消えて行った。まさに「ノブレス・オブリージュ(高貴な者の責務)」。謎に満ちた富豪の生涯を、著者は緻密(ちみつ)な取材で追いかけた。

 (2)イエス・キリストは処刑前夜に何を食べたのか。西洋絵画に繰り返し登場する「最後の晩餐(ばんさん)」。12人の弟子たちと食卓を囲み、裏切り者を告発するという気まずい食事会だ。グルメな美術史研究家は、メインディッシュの中身にこだわった。肉か、魚か。よく知られるダ・ヴィンチの作品を手がかりに、そのメニューをとことん探ってみれば、絵に込められた思想と主張が浮かび上がる。西洋美術を“食べ尽くす”一冊。

 (3)村の子どもたちはヒトラー・ユーゲント(ナチスの青少年組織)にあこがれた。制服がかっこよかったからだ。ユダヤ人に対する迫害は、労働者に支配民族としての自信と優越感を植えつけた。あの時代を生きた人々の証言を通して、ファシズムに絡めとられる過程があばきだされる。民衆の側の“戦争責任”を思い知らされたのだった。=朝日新聞2024年3月23日掲載