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「なぜ東大は男だらけなのか」書評 一大学を超えた社会全体の問題

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2024年04月06日
なぜ東大は男だらけなのか (集英社新書) 著者:矢口 祐人 出版社:集英社 ジャンル:女性学

ISBN: 9784087213034
発売⽇: 2024/02/16
サイズ: 10.6×17.3cm/240p

「なぜ東大は男だらけなのか」 [著]矢口祐人

 著者の矢口さんは在職26年になる現役の東京大学の教師(しかもいまは副学長)であるが、不肖私なんぞはかつて学生としてまた教員として、実に東大歴40年に及んでいる。であるから、東大の学生にも教師にも圧倒的に女性が少ないことは実感としてよく分かっているし、私には私なりの考えもあるぞと、そんな気持ちで読み始めた。
 ところが、随所で「へえ、そうなんだ」と教えられた。性差の問題に関する東大の現状と歴史、著者の専門であるアメリカの事情、シリアスな問題であるから、面白いと言っては矢口さんの本意ではないだろうし不謹慎でもあるだろうが、だけど、それらの話がとても面白かったのだ。
 敗戦後、アメリカの圧力のもとで東大は女性の入学を認めたが、女性を受け入れる体制はまったく整っていなかった。その頃の女性たちの困惑した声。ここに書くのも不愉快な言語道断なサークルがかつてあり、減りはしたがいまもあるという話。一番あきれたのは、1987年の森亘(わたる)総長の卒業生に向けての文章である。東大卒という肩書だけで世の中を渡れる時代は終わったということを言いたかったのだろうが、女性の存在を無視して、「かくして神様が東大出に割り当てて下さるのは、ほぼ東大と同様にダサイ某女子大学の卒業生程度」という、麻生太郎も顔負けの無神経で品のない言葉。
 だが面白がってばかりはいられない。東大のあり方を変えることは、この社会のあり方を変えることにもつながるだろうし、逆に社会のあり方を変えていかなければ東大の状況も変えられないだろう。だから、東大の状況はたんに一大学の問題にとどまらない。東大が男だらけなのは、日本社会全体の、非常に大きな問題なのだ。
 私としては、すべての高校を共学にすると、けっこう変わるのではないかと思っている。もちろんそれだけではだめだろうけど。
    ◇
やぐち・ゆうじん 1966年生まれ。東京大教授。専攻はアメリカ研究。著書に『ハワイの歴史と文化』『憧れのハワイ』など。