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未知の自分に出会うための実践知「人生のレールを外れる衝動のみつけかた」 杉田俊介の新書速報

  1. 『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』 谷川嘉浩著 ちくまプリマー新書 990円
  2. 『「頭がいい」とはどういうことか 脳科学から考える』 毛内拡著 ちくま新書 990円

 若い哲学者である著者の(1)によれば、スマホ時代においては何事にも深く没頭せず、注意を分散させたマルチタスク的な生き方がむしろ既定の「レール」になってしまう。そのためにいつでもどこでも誰かと繋(つな)がりうるが、つねに寂しさを抱えている。それに対し、そうしたレールを外れていく特異な「衝動」、自分でも説明のつかない「偏愛」の素晴らしさを著者は擁護する。たとえば空揚げを作って無償で配る人。野鳥の声や姿を細かく見分ける人。そうした不思議な衝動/偏愛はどこから来るのか。そしてそれを知性の力によって具体的な戦略や目的にいかに結びつけるか。未知の自分に出会うための新時代の実践知がここにある。

 また脳科学者の著者の(2)によれば、「頭がいい」とは記憶力のよさやIQテストの結果だけに限られない。先の読めない不確実な状況の中で、物事に試行錯誤を重ね取り組んでも挫(くじ)けないでいられる脳の働きのことだという。状況に応じて柔軟に変化し続けられる脳の「粘り強い可塑(かそ)性」、それを毛内は「脳の持久力」と名付ける。それは加齢によっても失われずある程度維持されるという。とすれば、「頭がいい」人たちのポテンシャルをより伸ばしていくには、私たちの社会は、個人の失敗や試行錯誤をより許容できるものでなければならないだろう。コスパや効率ばかりに偏重した社会は、かえって「頭のいい」人たちの将来の芽を摘んでしまうことになるだろう。=朝日新聞2024年4月27日掲載