後世のために必要な記録をきちんと残す。認証アーキビストとは、そのために国立公文書館が認定する資格を持った専門職員のことで、本書中の言葉を借りれば「番人」の役目を担う。もっと言えば50年先、100年先を見据えた「歴史の番人」だろうか。
「いつの時代にも残すべき記録を残そうと考えた人たちがいて、我々はその恩恵を受けているわけです。現在は過去の積み重ねで、文書が残されていなければ検証できず、そこから学ぶこともできません」。本書でも歴史の連続性と普遍性を強調している。
認証アーキビストになるには、知識だけでなく、実務経験や修士課程修了レベルの調査研究能力を要する。3年前に始まった制度で、これまでに300人余が認定され、全国の公文書館や文書館などで史料保存に努めている。歴代の各種行政文書、民家の蔵にあった崩し字の古文書、大小様々な時代の刻印である。
1期生の著者は、埼玉県立文書館で学芸主幹を務める。県内の城下町に育ち、小さな頃から歴史が好きだった。専門領域は戦国時代で、編著書がある。還暦を過ぎ、現場経験を生かして本書を著した。文書管理とその歩み、制度化への先達の取り組みから保存作業の実際や課題まで、後進には格好の手引書だろう。
テクノロジーの発達で、今は「すぐ消せる世界」になったと著者は言う。紙には紙ならではの利点がある。「保存次第で紙は千年持ちます」。特に若い人たちには「五感を使う」ことを勧めている。古文書の実物を手に取り、重さを感じ、ひっくり返して、においもかいでみる。文字で記された内容にとどまらず、そこからは「当時の人たちの息遣い」まで伝わってくる。
著者は本書で、歴史学者の高埜利彦氏が専門誌に寄せたコラム「静かな民主革命」に繰り返し触れている。アーカイブズ制度の確立で「政府や企業が情報を改ざんし隠蔽(いんぺい)することのない、説明責任を果たす公平で民主的な社会」の実現をめざす一文である。
アーキビストの仕事と意義が広く知られ、仲間が増えることを著者は願っている。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2024年4月27日掲載