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「大江戸恋情本繁昌記」文芸編集者がタイムスリップすると 谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』 ゆうきりん著 集英社オレンジ文庫 737円
  2. 『龍馬 THE SECOND 1』 馳月基矢著 ヒーロー文庫 770円
  3. 『哄う合戦屋』 北沢秋著 河出文庫 869円

 今回は「エンターテインメントの影響を強く受けた広義の歴史時代小説」をテーマに選書。

 現代の出版社で文芸編集者をしていた小桜天(そら)が事故に遭い、気づけば江戸時代の化政期にタイムスリップ。江戸時代でも本を作ることになり編集者として奮闘することになる(1)は、お仕事小説の文脈から江戸期の版元の仕事を照射する広義の時代小説。当時の風俗や現代の出版と往時の版元の違いを丁寧に描写しつつも、編集者が作り手を刺激して新作を作り上げる、普遍の営みを描き出す。江戸の出版人、蔦屋重三郎を主人公にした来年の大河ドラマ「べらぼう」の予習にも。

 時代小説界の若きホープとして注目される著者のライトノベル作品である(2)は、近江屋で横死した坂本龍馬が、共に死んだ中岡慎太郎と共に神々が定めた試練〈ヨモツタメシ〉を乗り越え、生き返りを目指すアクション小説。過去の英傑と戦う〈ヨモツタメシ〉によってアクションものの体裁を構築し、この死闘に登場する歴史上の人物を絵解きする。古き良き伝奇時代小説を咀嚼(そしゃく)し、現代に合わせリブートさせたエンタメ作品と位置づけできよう。

 時は戦国、武田や長尾(上杉)、村上などに囲まれ小領主の割拠する中信濃の地に流れ着いた軍師、石堂一徹の姿を描く(3)は、まばゆいばかりの才能を持ったがために孤独にならざるを得ない一人の男と、多くの無理解者、そしてごく少数のみ存在する理解者の群像を活写。現在の歴史時代小説の方向性を予言したエンタメ時代小説、堂々の復刊。=朝日新聞2024年5月4日掲載