大越健介さん「ニュースのあとがき」インタビュー 番組で抑えている「情」も
ＮＨＫで報道番組「ニュースウオッチ９」のキャスターなどを務めてきたが、６０歳の節目に活躍の場を「報道ステーション」に移した。「凡庸な１日が積み重なると長いと感じますが、あっという間の２年半あまり。数週間で六本木にいることに違和感がなくなりました。時代の変わり目にこの仕事に就いていることには運命的なものを感じます」
ウクライナ侵攻、安倍元首相銃撃事件、侍ジャパン……。自己点検の一環で、週末に１週間のニュースを振り返り、コラムをつづる日々を送るが、今回７１編を一冊にまとめた。「番組では自分の感情を抑えていますが、本では情の部分も書いています」。普段は温厚だが、ロシアのプーチン大統領や日本政府のコロナ対応に怒りをぶつけている。
「ニュースステーション」の久米宏さんは、庶民的な怒りを代弁した上で高視聴率を獲得し、ニュース番組を変えた。「報ステ」の古舘伊知郎さんも反権力を貫いた。岸田政権にもっと厳しい物言いをしないのか。「僕は手堅いほうだと思う。どのようにとっていただいても構わないのですが、安易に自分の感情や解釈で物事を語れないし、公正公平でありたい。（権力を）是を是として褒めることはあまりしませんが、批判だけして良しとする時代でもない」
アドリブ感満載の番組を目指したいと思ったこともあったが、早々に気持ちが変わった。「ＮＨＫの時から番組の質の高さを感じていて、無理に壊す必要がなかった。もちろん外から来た自分によって、良い化学反応が生まれれば」
キャスターは、その日の取材や編集に当たったスタッフの努力を視聴者に届ける最後の役割を負う。ぎりぎりまで新しい要素を入れたＶＴＲも、キャスターの一言で台無しになることもある。一方で「機械仕掛けの人形でもない」。だから、準備は怠らないし、生放送中の気付きがあればとっさに一言を付け加える。ＷＢＣの優勝のような時は視聴者を代表して喜ぶ。
十分すぎる経験には頼らない。「ニュースは今を映し出す。それにどう反応できるかの方が大事です」。徹底した現場主義を貫いている。（文・宮田裕介 写真・横関一浩）＝朝日新聞2024年5月11日掲載
