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青崎有吾「地雷グリコ」 心理戦・謎解き、圧倒の青春力

 まさに破竹の勢いだ。

 先月、わずか一週間の間に本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、そして山本周五郎賞を受賞。十一月の刊行のため、昨年の各種ランキングは対象外となったが、今年、冠はまだまだ増えるに違いない。

 主に描かれていくのは、五つのゲームだ。主人公となる高校一年生の射守矢真兎(いもりやまと)がまず挑むのは、「地雷グリコ」。文化祭で一番人気の屋上に出店できるわずか一団体の座を摑(つか)むため、クラス代表として、常勝チーム生徒会と対戦する。

 ジャンケンをして四十六段の階段を、パーで勝てばパイナツプルで六段、グーならグリコで三段と上がっていく。そこまではおなじみの「グリコ」だが、独自ルールとして各々(おのおの)三つの場所に「地雷」を仕掛けることができる。事前に相手が指定した段で止まると地雷を踏んだと見なし、十段下がらなければいけない。先に階段を上り切り勝者となるには、どんな手が有効なのか――。

 真兎は、提示されたルールを素早く理解し活用方法を考え、有効な作戦を組み立てる。同時に、読者もまた頭の中で戦法を考えずにはいられなくなる。どうすれば勝てるのか。穴はどこにあるのか。神経衰弱、じゃんけん、だるまさんがころんだ、ポーカーと、よく知る遊びが追加のオリジナルルールによってまったく異なるゲームに変わる興奮と驚き。緊張感漂う心理戦と謎解き。

 更に本書は凄(すさ)まじい青春力でも読者を圧倒する。敵が味方になり、チームになり、闘いの場を広げていく少年漫画的な展開。真兎の参謀役を担い、主要視点人物ともなる鉱田を含めた関係性。ハラハラドキドキワクワクの全てが詰まっている上に、ちょっと切なくて愛(いと)おしい。好感度も抜群で、この先も大いに期待してしまう。これは強いぞ!=朝日新聞2024年6月1日掲載

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 KADOKAWA・1925円。23年11月刊。7刷2万6千部。「イカサマや運頼みがほとんどないため、主人公らの勝利の瞬間に、ロジックに納得したり驚いたりできて気持ちがいいなどの感想が聞かれる」と担当編集者。