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現代社会の問題とらえた活劇小説「スリーアミーゴス バッドカンパニーⅢ」 若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『スリーアミーゴス バッドカンパニーⅢ』 深町秋生著 集英社文庫 935円
  2. 『身代りの女』 シャロン・ボルトン著 川副智子訳 新潮文庫 1320円
  3. 『プレイバック』 レイモンド・チャンドラー著 田口俊樹訳 創元推理文庫 990円

 のさばる悪を何とする。(1)は危険な仕事を請け負う人材派遣会社「NAS」の面々が社会に巣食(すく)う悪人たちを蹴散らす活劇小説シリーズの第三作だ。血も涙もない辣腕(らつわん)社長の野宮綾子から命令を受け、元自衛官で武道に長(た)けた有道了慈や、元公安刑事の柴志郎、政治一家の娘ながら武闘派ヤクザから喧嘩(けんか)を学んだ朝比奈美桜らが大暴れする。切れの良い格闘場面と癖の強い登場人物たちの個性で楽しませる作品だが、第一話「ワーキングクラス・ヒーロー」で外国人技能実習生が受ける過酷な状況が描かれるなど、現実の日本が抱える社会問題を扱うシリアスな面もある。弱者を狙う者たちの外道ぶりがしっかりと書かれるからこそ、「NAS」の派手な立ち回りに胸がすく。

 (2)はCWAスティール・ダガーの最終候補になったスリラーの逸品。高速道路を逆走する度胸試しで事故を起こし、母娘三人の命を奪ってしまったパブリックスクールの優等生六人組。その内の一人が身代わりを申し出て、他の仲間と“約束”をするが、その約束が二十年後に大きな波紋を呼ぶ。頁(ページ)を捲(めく)るほどに不安が増大し、予測のつかない展開にのめり込むこと間違いなしの小説だ。

 (3)は一人称私立探偵小説の大家、レイモンド・チャンドラーが死の前年に遺(のこ)した長編を『長い別れ』に続き田口俊樹が新訳したもの。私立探偵フィリップ・マーロウの印象を決定づけた名台詞(ぜりふ)がある事で有名だが、今回の田口訳でも是非ご注目を。従来のマーロウ像に新たな魅力を添える文になっていると思う。=朝日新聞2024年6月1日掲載