優しさやあたたかさを感じた原作
――ヤマシタトモコさんの原作を読んでどんなことを感じましたか?
新垣結衣(以下、新垣): 私は元々友人に勧められて読んでいたのですが、登場人物たちそれぞれに抱えているものがあって、時にそれがフラッシュバックしてヒリっとしながら日々を過ごしていく様子がリアルに描かれているなと思いました。悩みや抱えているものって、いきなりどうにかできるわけではないですよね。それを「抱えたままでもいいんだよ」といってくれているような優しさや、お互い違う人間だけど、寄り添うことで一緒にあたたかい時間を過ごしていけるということを作品から感じました。
早瀬憩(以下、早瀬): 私も一人一人違った悩みを抱えながらも、一生懸命生きている姿に心を打たれました。作品のメッセージにも「分かり合えなくても、寄り添えることはできる」とありますが、分かり合えないからといって「他人」と割り切り諦めてしまうのではなく、いろいろな人との出会いがあって、そこでちょっとゴタゴタもしながら寄り添って成長していくストーリーは、読んでいて心が救われるようなあたたかい気持ちになれる作品でした。
――試写を見て、新垣さんと早瀬さん以外に槙生と朝は考えられないと思いました。「早瀬さんだったから、新垣さんだからここまでできた」という気持ちや、そう感じたシーンはありましたか?
新垣:最初に本読みをした時に、憩ちゃんのお芝居がとても好きな気持ちや、この作品にかける思いをひしひしと感じてすごく頼もしかったし、現場に入るのが楽しみでした。撮影をしている当時は憩ちゃんも朝と同じ15歳。そのみずみずしさを全身で感じたし、憩ちゃん自身も朝のようにピュアでまっすぐな人なので、こちらも清らかな気持ちになりました。
「もしかしたら槙生が朝と一緒にいる時もこういう風に感じるのかな」と思う瞬間があったし、実際に完成した作品を見ても、憩ちゃんが演じる朝ちゃんだからこそ伝わってくるものがたくさんありました。その時の憩ちゃんが演じる「朝」という役をこういう形で残してくれて、目の前で一緒にお芝居させてもらえて本当にありがとうという気持ちです。
早瀬:撮影の最初の頃、私が少し人見知りしてしまったのですが、結衣さんの方からたくさん話しかけて、ずっと笑顔でいてくださったんです。そのおかげで私も自然に心を開くことができてとてもありがたかったし、撮影中は常に「槙生ちゃん」としていてくださるから、私も朝としてその場に立っていられたので、結衣さんのおかげで朝を演じることができたと思っています。
人間関係は「失敗・傷つくことの積み重ね」
――新垣さんが演じた槙生は、人見知りで他者と深く関わることが苦手な女性ですが、彼女の抱えているものや内面をどう捉え、表現しようとされましたか。
新垣:槙生はよくキャラクター紹介で「人見知り」とか、朝からも「コミュ障」と言われることがあるのですが、ファーストコンタクトが最大の難関というだけで、その人を知った後は特に関わることを極端に拒否していないなと私は思うんです。朝のことも、自分で引き取ったとはいえ最初は戸惑っていますが、向き合うと決めたらシャットアウトするのではなく、彼女なりに向き合っている。最初は人と関わることに臆病だけど、その先はちゃんと心から向き合う人だなと原作や脚本を読んで感じました。
きっと、今作では描かれていない槙生の過去の中で、まっすぐに人と向き合いすぎて疲弊した経験があって、人と関わることの苦手意識みたいなものがあるのかもしれないけど、根っこから人が苦手というわけではないんじゃないかなと思いました。
――人づきあいでの失敗や傷ついた経験があると、より慎重になったり臆病になったりしますよね。
新垣:私も人と関わっていく中で「失敗したな」と思ったことや、傷ついた経験があります。そういうことの積み重ねで、槙生も今の自分にとって一番いい人との距離感というのが彼女なりに出来たのではないかなと思うんです。でも不器用なところもあるので「なんでこんなこともできないんだろう」と自分で自分に失望する瞬間は未だにあるのだろうけど、それを抱えながら自分を受け入れながらも、人と関わっていきながらなんとかやりくりしている人なのかなと思いました。
――朝は両親の死にどう向き合えば良いか分からず、繊細な感情を持ち合わせた複雑な役どころでした。
早瀬:両親が亡くなったことは忘れようと思っても忘れられない、心に残り続けていることなので、時間が進んで、朝が明るさを取り戻していっても、心の片隅にはずっと孤独感があることは演じる上で忘れないようにしようと思っていました。両親が亡くなった直後はほとんど表情が変わらなくて、抜け殻みたいな感じなんです。「ドラマとかだったら号泣することなのに、なんかぽかんって穴が開いた感じ」を出せるようにと思ってお芝居していました。
――時が経つにつれて、朝のちょっとした変化を感じた瞬間はありましたか?
早瀬:いろいろな人との関わりの中で感情の変化はたくさんあったと思います。私は特に、親友のえみりが抱えている秘密を打ちあけてくれた時、朝の抱えているいろいろな感情がワーっと爆発しそうになりました。親友だからこそ言ってくれたのだろうし、そのことについては「ありがとう」という気持ちもあるけど、逆にそれまで彼女の悩みに気づけなくて、自分がデリカシーのない発言をしていたことを悔やむことや、身近な人がそういう思いを抱えていることに対して驚きに似た思いもあったと思います。
相手を変えるのではなく、自分を変える
――「わかり合えなくても、寄り添えることを知った」が本作のキャッチコピーになっていますが、2人は他者との関係性を保つ上でどんなことを大切にしていますか。
新垣:近しい人とのことで言うと、私はどんなに仲が良かったとしてもそれぞれが自立した存在で、違う人間であるということを忘れないようにしています。それは槙生の特徴にもつながるかもしれないけど、以前「私と相手は違う人間である」ということを忘れた瞬間に踏み込みすぎて、自分も相手も傷つけたかもしれないと思った経験をしました。距離をとることは別に寂しいことではなくて「お互い違う人間である」ということをちゃんと理解した上で「じゃあどういう風に寄り添えるか」ということを考えてみると、自分の意識も相手への接し方もちょっと変わってくると思うんです。
それに、自分と違うということを分かっていれば相手のことを尊重することもできると思うし、自分が相手に何かしたいと思うことが、相手にとって本当に必要かどうかは分からないじゃないですか。相手との距離が近すぎると見えなくなったり、うまく伝えられなかったりするのかなと思うので、ある適度の距離感を持つことは大事にしています。
早瀬:誰でも苦手な人や馬が合わない、いわゆる「わかり合えない人」っていると思うんですけど、そういう人をすぐに遮断せず、声をかけてみたり、ただ隣にいるだけでも関係ってすごく変わるんじゃないかということをこの作品を通して考えさせられました。作中の朝とえみりでいうと、本当に親しい友人でも、秘密や言いにくいことを抱えているのは当たり前のことだし、私は素敵だなって思うんです。でもえみりにとってはなかなか言い出せなくて言いにくいことを、本人ががんばって「変わろう」とさせるのではなく、朝や周りにいる人たち自身の意識や考え方が変わらなきゃいけないなと思いました。
新垣:相手を変えるのではなく、自分を変えるっていう考え方をその歳で持てるのはすごく素敵! やられました(笑)。