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「ケアする声のメディア」書評 孤独を癒やし自分らしさを尊重

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2024年06月22日
ケアする声のメディア: ホスピタルラジオという希望 (青弓社ライブラリー 109) 著者:小川 明子 出版社:青弓社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784787235350
発売⽇: 2024/04/18
サイズ: 1.5×18.8cm/230p

「ケアする声のメディア」 [著]小川明子

 「病院ラジオ」という評判のNHKテレビ番組をご存じだろうか。お笑いコンビ・サンドウィッチマンが各地の病院を訪れ院内ラジオ局を設置。患者や家族、医療関係者に話を聞く。病気の体験談から広がる対話は視聴者の笑いと涙を誘う。
 本書はこの番組が題材とするホスピタルラジオの研究書。といっても読みやすい内容で、序章は著者の体験から始まる。息子と父親が次々と入院した。家族が帰った夜、病室で孤独や不安を感じていないだろうか。著者は、そんなケアのニーズに応えてくれるホスピタルラジオと出会い、妙に納得したという。ホスピタルラジオは20世紀前半に米英で始まり、現在イギリスには150ほどのラジオ局があるそうだ。
 ホスピタルラジオによる娯楽の提供の意義は「双方向性」にあると著者はいう。地上波ラジオと比べて、自分のリクエストやメッセージが読まれる確率は高い。ボランティアが病棟を訪れて患者から直接リクエスト曲を募ることもある。見舞客が少なくとも、会話する機会が増えるのだ。また、リクエストの際に名前が読まれると、患者として扱われがちな病室でも、自分らしさが尊重されていると感じられる。
 なんと著者がラジオ番組でホスピタルラジオを紹介したことをきっかけに、2019年に藤田医科大学病院で日本初の院内ラジオ「フジタイム」が始まったそうだ。病院スタッフがボランティアで医療情報や音楽を流し、患者からも好評を得ているという。YouTubeでも聴取可能だ。
 文字や動画が中心のSNSを開くと常に誰かと誰かが言い争っている。この装置はソーシャルなメディアとも呼ばれているが、実は、人の話を「聞く」ことを難しくしているのかもしれない。その一方で、音声メディアであるホスピタルラジオは、ケアのコミュニケーションを担う。国内でも増えて欲しい実践だ。その存在に光を当てた本書に拍手を送りたい。
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おがわ・あきこ 立命館大教授(メディア論、コミュニティメディア研究)。著書に『デジタル・ストーリーテリング』。