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書評委員の「夏に読みたい3点」②福嶋亮大さん、藤田結子 さん、保阪正康さん、前田健太郎さん、御厨貴さん、三牧聖子さん

福嶋亮大さん(批評家)

①挽歌集 建築があった時代へ(磯崎新著、白水社、3080円)
②リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す(山本義隆著、みすず書房、1980円)
③都市と星〈新訳版〉(アーサー・C・クラーク著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫、1210円)

 過去・現在・未来(ないし芸術・政治・文学)に関わる本を一冊ずつ挙げたい。
 ①は稀代(きだい)の建築家が遺(のこ)した追悼文集。師の丹下健三をはじめ、イサム・ノグチ、岡本太郎、武満徹、ジャック・デリダ、倉俣史朗、吉本隆明ら死者たちの横顔が、簡潔かつ思い出深く描かれる。20世紀後半の芸術や思想に関する絶好の手引書。
 ②はリニア中央新幹線計画を合理性のない巨大プロジェクトと見なし、その多くの問題点をコンパクトにまとめる。今後の望ましい社会を考えるヒントとなる一冊。
 ③はリリカルで思索的なSFの古典的名作。宇宙から撤退してゲームに興じる未来の都市の子どもは、いかにその外に出るのか。IT企業家が宇宙ビジネスをしきりに宣伝する今、再読されてよい。

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藤田結子さん(東京大学准教授)

①占領期ラジオ放送と「マイクの開放」(太田奈名子著、慶応義塾大学出版会・4620円)
②母性の抑圧と抵抗(元橋利恵著、晃洋書房・4290円)
③介護する息子たち(平山亮著、勁草書房・2750円)

 暑い夏に熱い本を薦めたい。若手研究者の情熱が伝わる3点。①戦後、パンパンの「姐(ねえ)さん」が、NHK男性アナに希望はないのかと聞かれ、「人間ですもん」と食ってかかったラジオの音源。これに関心を抱いた著者は民衆の声を丁寧に聴き直し、「マイクの開放」の意義を再考する。
 ②子育てが自己責任化する今日、母親たちの社会運動はいかなる対抗となりうるのか。著者はケアの倫理の議論を基に考察する。「ママの会」へのインタビューも興味深い。
 ③男性性研究を牽引(けんいん)する著者の最初の学術専門書。目に見えないケアを検討しつつ、息子が行う介護には、女性が担うお膳立てや「自立という欺瞞(ぎまん)」が存在すると鋭く指摘する。終章の男性学批判も示唆に富む。

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保阪正康さん(ノンフィクション作家)

①宇宙からの帰還 新版(立花隆著、中公文庫・946円)
②戦艦大和ノ最期(吉田満著、講談社文芸文庫・1100円)
③石橋湛山評論集(松尾尊兊編、岩波文庫・1078円)

 ①によると、人類史170万年、地球の外に出た人は百人余の時代に、宇宙飛行士は何を見て、何を考えたか。月から地球を見るのは、神の感覚だったという証言は、哲学、宗教など、私たちの文明観を一変させる。
 ②「天皇のために死す」という国家的スローガンをめぐる論争が、戦争末期、職業軍人と学徒兵の間で特攻大和の艦内で行われていた。戦時下の死のあり方について、論争や乱闘の中で、彼らが求めていた精神は何か。その問いはあまりにも重い。
 ③近代史では言論人、現代史では政治家という、二つの顔を歴史に刻んだ石橋湛山の代表的主張を収めた書。権力に阿(おもね)らず、衆に媚(こ)びず、持論を徹底して守り抜いた稀有(けう)なジャーナリストの、時代を超えて範たりうる論集だ。

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前田健太郎さん(東京大学教授)

①日本政治思想史 十七~十九世紀(渡辺浩著、東京大学出版会・3960円)
②誰のために法は生まれた(木庭顕著、朝日出版社・2035円)
③支配について Ⅰ・Ⅱ(マックス・ウェーバー著、野口雅弘訳、岩波文庫・Ⅰ1573円、Ⅱ1430円)

 自分が大学生だった頃に出会いたかった本を3点。①は、徳川日本の思想史。儒学からジェンダー規範まで、幅広い対象を視野に入れて明治維新への道を描く。鎖国のイメージが未(いま)だに強い時代だが、その中でも日本人は政治について考え続け、最後は自ら革命を起こしたことを教えてくれる。
 ②は、ローマ法学者が中高生と法の役割を議論した作品。演劇や映画を題材とする平易かつユーモラスな解説が特徴。キーワードは「占有」だ。
 ③は古典の新訳。ウェーバーの学説は政治学の教科書に必ず登場するが、独自の概念を多数用いるため、その難解さでも知られる。今回、充実した訳註(やくちゅう)と用語集によって飛躍的に理解が容易になったので、ギブアップしたことのある読者はぜひ再挑戦を。

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御厨貴さん(東京大学名誉教授)

①花や鳥(高橋睦郎著、ふらんす堂・3300円)
②訂正する力(東浩紀著、朝日新書・935円)
③民主化への道はどう開かれたか 近代日本の場合(三谷博著、清水書院・1100円)

 本を読むとは文体を読むことだ。①から「漱石五十鷗外六十送り舟」「子規は兄虚子は父なり絲瓜(へちま)棚」。この短い句は重なりあって、過去の文人を引き寄せて、広大な宇宙のダイナミックな世界を展望する。漱石忌に「文豪にわれは文耄(ぶんもう)葛湯吹く」はふっと笑える。疫禍3年目の春に「世に在りて草葉の蔭(かげ)や草青む」で時の流れを知る。②で東は「訂正する力」を提示する。現実を「再解釈する」ことだ、と。人は変わらず、しかしいつの間にやら変わっていく。東はそこに老いを生きる力としての訂正する力を認めるのだ。③は老練な歴史家が、高校生向けの文体を開発しながら、明治維新の特色を描き出す。大胆な仮説をキレキレの文体が保証する。いや、文体を読むことで、本は読めるものだ。

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三牧聖子さん(同志社大学准教授)

①国際法以後(最上敏樹著、みすず書房・4070円)
②相互扶助論 進化の一要因(ピーター・クロポトキン著、小田透訳、論創社・5280円)
③イスラームの定着と葛藤(伊達聖伸、見原礼子編著、勁草書房・4400円)

 国連の安保理常任理事国が堂々と国際法を蹂躙(じゅうりん)する時代。広がる国際法への幻滅に抗し、国際法学は「それでも国際法は機能している」と示し続けてきたが、国際法の無力と向き合う時ではないか。①は、違法行為を絶えず生み出す国際法の病理に斬り込む。
 戦争や移民・難民排斥。世界では生存をめぐる闘争が激化するが、それは人の営みのすべてではない。②によれば、相互扶助は人類史における常態であり、その感性も実践も自然からの贈与だ。早世の人類学者グレーバーらの序文、ブックガイドを含む小田透のあとがきも魅力。
 総選挙で右派政党の躍進を押しとどめたフランスだが、反ムスリム感情は社会に広がる。共生を諦めない人に、多様な包摂の試みをひもとく③を薦めたい。

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>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」①はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」③はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」④はこちら