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杉田敦さん「自由とセキュリティ」インタビュー 今の秩序と違う選択肢を

杉田敦さん

 コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で、人々は不安のない状態、つまりセキュリティを強く求めるようになった。公衆衛生から治安維持、安全保障までを含む言葉だ。

 「日本では科学者が行動制限を命じ、人々が社会的圧力として動き、セキュリティのために自由を制限せよという話も出た。政治学が扱ってきた自由とセキュリティの相剋(そうこく)が、色々な形で現れました」

 政治理論が専門の著者は、この問題を深く考えた思想家たちを読み直すことにした。まず、少数意見を擁護し自由を追求したミルと、セキュリティの欠如は恐怖だとし、秩序の安定を求めたホッブズ。

 「はっきりしてきたのは、自由とセキュリティの関係は『多元性と一元性』の対立だということです。セキュリティを重視する人は、多様な意志や権力は危ないとし、内部を同質化しようとする。でも株を買うときは様々な株でリスクヘッジするように、一元化が唯一の答えではない」

 多元性や自由の意義をこう強調するが、実は従来の姿勢からかなり踏み込んでいる。

 「今までは『Aとも言えるが、Bとも言える』と書き、そこはかとなくどちらかに与(くみ)する書き方でした。だが、この閉塞(へいそく)感の中では、もう少しはっきり言わないとダメだと」

 本書でも、自分は〈複数の正しい考え方が、どこまで行っても残るという多元主義の立場に立つ〉と書く。

 そしてセキュリティ志向の流れに、ルソーと、ナチスに密着した憲法学者・政治学者シュミットをみる。自由を尊重する系譜は哲学者・歴史学者フーコーと、多元主義を主張した思想史家バーリンだ。

 バーリンは、自由な社会とは自由な伝統がある社会、すなわち自由な実践が定着している社会だという。それがないところではどうするか。

 「きわめて長い時間と人々の不断の努力を要します。ただ、自由の伝統がなく、セキュリティが優位な社会こそ自由を論じる必要がある。日本では、今の秩序と違う選択肢を考えていいんだという発想が乏しい。『これではない何か』を考えていいんですよ、というのがメッセージです」(文・石田祐樹 写真・大野洋介)=朝日新聞2024年7月27日掲載