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楊駿驍さん「闇の中国語入門」インタビュー 想像の手段としての言葉

楊駿驍さん

 中国語の教科書であると同時に、中国文化論でもある。著者がそう位置づけた通り、中国語がわかる人も、そうでない読者も楽しめる本だ。

 中国文学や文化、ゲーム文化論を専門とする34歳の研究者。中国語を教えることになった4年前、大学院時代の恩師が参考にするようにと段ボール3箱分の中国語の教科書を送ってくれた。目を通してみると、ユートピア(理想郷)が広がっていた。希望とやる気に満ちた人たち、やさしい同級生や家族が登場する。

 そんな単一の世界観、価値観を伝えるものではない、倫理にしばられない語学の教科書を作りたいと思った。「異質な者どうしが理解し合うきっかけとなるのは時に、悩み、恨み、悲しみ、不確実さといったネガティブなものに対する共感だと考えています」

 中国東北部の吉林省吉林市で生まれ、13歳まで過ごした。読書と文章を書くのが好きだった少年は両親と共に日本に移り住み、話せる言葉をいったん失った。日本語という新しい言語を獲得したことによって、生まれ変わったような気がした。日本語で、自身がため込んできた「闇」と向き合った。「自由はどこか外の世界に行くことで実現するのではなく、想像力の手段としての言葉によってこそ実現されると痛感した」。そんな思いも本に込めた。

 2章構成。第1章「心の闇」では、「心酸(悲しみがこみ上げる)」「冷漠(冷たく無関心である)」などの単語を取り上げた。第2章「社会の闇」では、「奢求(過度の望み)」「失信(信用を失う)」といった言葉を通して中国社会の構造を考えていく。

 中国語の例文と日本語訳を置き、解説部分では意味や使い方、時代性や社会的な背景を説明している。中国語にはピンイン(ローマ字表記)を振った。

 中国では世相を表す新しい表現が続々と生まれる。言葉の持つ可能性に魅せられている。「次作では文学作品をベースにして中国文化を論じてみたい」(文・金順姫 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2024年8月24日掲載