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「アイヌがまなざす」「家族、この不条理な脚本」書評 多数派による差別と神話を解体

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2024年09月21日
アイヌがまなざす──痛みの声を聴くとき 著者:石原 真衣 出版社:岩波書店 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784000616416
発売⽇: 2024/06/17
サイズ: 2.9×18.8cm/360p

家族、この不条理な脚本 著者:キム・ジへ 出版社:大月書店 ジャンル:社会学

ISBN: 9784272350636
発売⽇: 2024/07/24
サイズ: 13×19cm/240p

「アイヌがまなざす」 [著]石原真衣、村上靖彦/「家族、この不条理な脚本」 [著]キム・ジヘ

 マジョリティはマイノリティが直面する困難に気づけない。自戒を込めていうと、学ぼうとしなければ、意図せずして差別を助長するかもしれない。目が覚めるような読書体験をもたらす2冊を届けたい。
 『アイヌがまなざす』は、多数派日本人である和人によって一方的に表象されてきたアイヌ自身が、和人をまなざし返す秀逸の書だ。インタビューを基に、遺骨返還運動、アイヌ女性への差別、学術界にみられる問題を軸に論じていく。
 著者の1人、北海道大アイヌ・先住民研究センターの石原真衣氏は、日本人フェミニストは日本人のことしか考えてこなかったのではないか、と問いを投げかける。
 北米では、白人女性は黒人女性からの批判を受容しつつ、フェミニズムが発展してきた。一方、日本ではジェンダー論の教科書にアイヌや沖縄、在日を取り巻く植民地主義を扱う書はないという。先住民や被植民者の女性が日常的に暴力を受けているのに、その差別の交差性は十分に論じられていない。
 そして、日本人の女性知識人に多数派である特権性を自覚するよう促す。マジョリティ女性に、暴力を止める可能性を期待するからこそだ。
 さらに本書は、和人の研究者にとって都合のいいアイヌが好まれ、そうでない者は排除される構造を鋭い洞察力で描き出す。ハッとさせられる文章が持つ力を、頁(ページ)をめくって確認してほしい。
 『家族、この不条理な脚本』は、性的マイノリティに焦点をあて韓国の家族制度を考える。「嫁が男だなんて!」というよく知られたスローガンは、結婚制度に女性の従属と同性愛差別が根深く残る状況を浮き彫りにする。
 同性カップルは出産ができないから結婚すべきではない、子どもが不幸になるといった主張はなぜ生まれたのか。本書は家族という神話を慎重に解体していく。あるべき家族像にこだわる日本との共通点も興味深い。
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いしはら・まい 北海道大准教授。むらかみ・やすひこ 大阪大教授▽金知慧(Kim Ji-hye) 韓国の江陵原州大学校教授。