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「アメリカ大統領と大統領図書館」書評 民主主義の「教科書」を訪ね歩く

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2024年09月28日
アメリカ大統領と大統領図書館 (筑摩選書 283) 著者:豊田 恭子 出版社:筑摩書房 ジャンル:評論・文学研究

ISBN: 9784480018021
発売⽇: 2024/07/18
サイズ: 18.8×2.1cm/304p

「アメリカ大統領と大統領図書館」 [著]豊田恭子

 フーバー以降の米国の歴代大統領には、国立公文書記録管理局が管理する大統領図書館が存在している。全米各地に立つ大統領図書館は、大統領に関わる文書記録を保存・管理するアーカイブ部門と、大統領の事績などを紹介するミュージアム部門から成る。本書は、その大統領図書館を訪ね歩いた記録である。各章の記述は簡潔で淡々としており、終章を除けば著者の意見が声高に語られることもない。
 だが、13人の大統領が、図書館という切り口によって並べられてみると、米国の民主主義が辿(たど)ってきた道とその現在地が不思議と炙(あぶ)り出される。後世の検証や歴史研究の観点から重要なのはアーカイブ部門だが、地域経済や一般の人びとへのインパクトという点ではミュージアム部門の意義が大きい。そのミュージアムの企画も様々で、トルーマン図書館のように大統領が下した決断の是非を来館者に考えさせる展示もあれば、レーガン図書館のように難しい議論よりも娯楽性を重視したものもあるという。自画自賛と自己弁護に白々しい印象を受ける図書館があることも事実だ。
 とはいえ、大統領図書館を、歴代大統領の神格化を進める装置に過ぎないと単純に片付けてしまってよいのだろうか。党派性のある内容であっても、議論が開かれていれば、むしろ主権者教育の最良の素材となっているかもしれない。
 近年は電子記録が膨大になり、整理が追い付かなくなっているという。大統領財団に求められる拠出額も高騰しており、オバマ大統領の図書館は従来のような形では建設されないことが決定している。これまでのような図書館が望めない背景には、国民の間に超党派精神が無くなっていることもあると著者は述べる。
 私も以前に大統領図書館の一つを訪ねたことがあるが、静謐(せいひつ)な時間が流れていたことを記憶している。民主主義の教科書の一つが、今後は失われてしまうのだろうか。
    ◇
とよだ・きょうこ 1960年生まれ。東京農業大教授。米シモンズ大で図書館情報学修士号を取得した。