2015年に、雑誌の仕事で台湾を一周した。始発駅の台北で素食(ベジタリアン)の駅弁を買い、往路は西回りの台湾新幹線を使う。南に下るにつれ、右側の景色は海の青でいっぱいになる。帰りは東回りの特急に乗るが、こちらは山の印象が強い。途中下車しながらの旅は、素朴で優しい人々の思い出でいっぱいだ。
本書はその台湾鉄道の歴史をひもときながら、ここ130年の台湾のあゆみを描く。台湾島の東西に走る河川が南北の行き来を困難にしていた19世紀末、人々は大陸を経由する船で3日かけて台北―台南間を移動していた。鉄道が南北を結び、約半日で島を縦断できるようになったことで、「台湾人」というアイデンティティーが形成されていったという著者の指摘は興味深い。
中央に位置する山岳地帯を横切って線路を敷くことは現在でも難しく、台湾鉄道は島をぐるりと囲むように走る。南北端に敷かれた廻線(かいせん)が東西の縦貫線をつなぐまでには100年以上がかかった。縦貫鉄道の発展は、20世紀の戦争と共にあったとも言える。日本統治時代に完成するが、戦時下は軍事的用途が優先された。大戦中の空襲で大破した路線は、戦後アメリカの援助で修復され、現在に至る。こうした台湾の歴史はわたしたちも知っておくべきだろう。
鉄道好きの息子と久々、一緒に本を読めたのも、楽しかった。=朝日新聞2024年10月5日掲載