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おおのたろうさんの絵本「じんせいさいしょの」 ユーモラスな「赤ちゃんあるある」の数々に共感

『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)より

2人目の子育て中に描きためたスケッチが絵本に

——「じんせいさいしょの泣き」から始まり、1歳半までの赤ちゃんの成長記録がユーモラスに描かれる、おおのたろうさんの絵本『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)。1100を超えるイラストと「赤ちゃんあるある」が160ページにわたって詰まった本書は、子育て世代の共感を得てベストセラーとなっている。

『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)より

 『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)に描いた赤ちゃんのモデルはわが家の子どもたちです。長男が生まれたときは、初めての子育てということもあって、全然余裕がなくてたまにスケッチするくらい。次男が生まれたときに「この景色、長男のときも見たな……」と記憶が鮮明によみがえってきたんですね。赤ちゃんの一つひとつの仕草に面白さと愛おしさを感じて、育児の合間にスケッチするようになりました。

 赤ちゃんのスケッチをSNSに投稿したら「うちの子とまったく同じことしている!」と子育て世代からの反響が大きくて。何ヵ月かイラストを描きためていくと結構なボリュームになったので、「絵本」というかたちで出版することになりました。実はコミックエッセイや育児書も候補にあがっていたんですよ。でも、親子で楽しみながら読んでほしいなという思いがあったので、幅広い世代に手に取ってもらえる「絵本」というジャンルで制作しました。

——見開きごとに成長していく赤ちゃんのかわいらしい仕草や行動に思わずほおが緩む。「タオルがからんで聖母マリア」「ブルース・リー的な鼻シュッ」などイラストに添えられたタイトルも相まって、赤ちゃんの「一瞬」を切り取る観察眼に驚くばかりだ。

『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)より

 「スマホの写真に撮ったものを見て描く」ということは、あまりしませんでした。在宅で仕事をしている合間に、子どものケアをしていて「あっ」と思う仕草があったら、すぐにその印象を頭のなかにしまって、子どもを寝かしつけた後にラフを急いで描く。時間があるときはずっと子どもの顔を眺めていることもあります。見ていて飽きませんね。

 どんどん成長していく子どもをスケッチするなかで強く感じるのは、「その瞬間を見逃したら、次はないかもしれない」ということ。子育てする日々に散りばめられた「かけがえのない一瞬」を、より大切に味わえるようになったと思います。

幅広い世代の親子の絆をつなぐ

——幅広い世代から支持されている本書には、子育て中の読者はもちろん、「子どもや孫の小さなころを思い出して懐かしい」「自分の赤ちゃん時代に思いを馳せた」といった反響も。80代の読者から手紙で感想が送られてきたときは驚いたという。

『じんせいさいしょの』(KADOKAWA)より

 80代の方から「自分は今、人生を終えようとしているけれど、この絵本を読んで自分自身が赤ちゃんのころはどうだったのだろう、自分の母もこんなに優しい視線で見守ってくれたんだろうか……とあたたかい気持ちになった」といった内容のお手紙をいただいて。そうした視点で絵本を読んでもらえたことに心を打たれました。

 ほかにも、認知症が始まったお母さんに娘さんがこの絵本をプレゼントしたら、「そういえばあなたもこんなことしていたよね」と記憶がよみがえって会話のきっかけになった、という感想も。読者に楽しんでもらえればいいなと思ってつくった絵本ですが、幅広い世代の読者の方から感想をいただくことができて、作者としてもうれしいですね。

子育てに疲れたときは「幽体離脱」

——2024年は読者の声に応えて、1歳半から3歳までの「あるある」を描いた『続じんせいさいしょの』(KADOKAWA)、子どもが誕生してから1歳までの思い出を記録できる書き込み式の『じんせいさいしょの育児日記』(KADOKAWA)も出版した。

『続じんせいさいしょの』(KADOKAWA)より

 ありがたいことに多くの読者の方から、「続編が読みたいです!」という声をいただいて。2〜3歳って生まれてすぐの赤ちゃん時代とはまた違った、面白さとかわいさが出てくる時期じゃないですか。一方で“イヤイヤ期”という大変な試練もあります(笑)。続編でも1冊目と同じく大ボリュームで、描き下ろしを前作以上にたくさん入れて制作しました。

『じんせいさいしょの育児日記』は、「生まれた日のこと」「はじめて話した言葉」「はじめて笑った瞬間」など、「じんせいさいしょの」出来事が楽しく書き込める育児日記です。手書きのメモや文章って、短くてもすごく情報量が多いと思うんですよね。一文を読んだだけで、そのときの情景や気持ちをパッと思い出すことができる。

 子育てしていると、子ども時代を追体験しているように感じることがあります。初めてのことに対する驚きやうれしさ、失敗なんかも子どもの目を通してもう一度体験できる。幸せだな〜って日々思いますけど、やっぱり余裕がなくて大変なとき、疲れてしまうこともありますよね。

 そういうときは自分たちの状況を、いったん「幽体離脱」するような気持ちで見るようにしています。イヤイヤに手を焼いているとき、10年先の自分を召喚して見てみると、「未来の自分から見れば、このイヤイヤもかけがえのない一瞬」と思えるかもしれない。「あ、今日はお尻が山になっている『イモムシ型イヤイヤ』だな」と感じて、面白がることができたらしめたものです。日々、ちょっとした笑いを取り入れながら子育てできたらいいな、といつも思っています。