- 『歴史学はこう考える』 松沢裕作著 ちくま新書 1034円
- 『レコンキスタ 「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和』 黒田祐我著 中公新書 1210円
歴史好きは多くても、歴史家が何をしているのか知っている人は案外少ない。歴史家とは、きちんとした根拠(史料)に基づいて歴史を書く人である。(1)は、スローモーションで動作をみるように、歴史家が歴史を書くとき何をしているのか、自ら一つ一つ解説した本で、類書はない。史料に残された過去の人びとの言葉に没頭する歴史家の営みは、職人芸になりがちである。だが、歴史について何かを語るのは、歴史家だけではない。私たちは皆、実は歴史について日々何かを語っている。だからこそ、私たちは歴史についてきちんと言葉を交わしあう必要がある。それが可能な社会をつくっていくためにも、歴史家が何をしているのか、みんなに知ってほしい、そんな熱い願いが込められた一冊である。
(2)は、15世紀末に誕生するスペインの前史、中世イベリア半島800年の歴史を描く。キリスト教とイスラーム教という二大宗教勢力がせめぎあう歴史は、前者による後者の征服を指す「レコンキスタ」という言葉で総称されてきた。しかし、この言葉は同時代には使われておらず、近代の造語である。両勢力は対立するだけではなく、接触と交渉を繰り返し、同胞と戦うために異教徒とも手を組んできた。単純な宗教対立でも、多文化共生という奇麗ごとでも済まない「割り切れなさ」。史料の語る同時代の言葉に耳を傾けながら、理念と現実が決して一致することのなかった中世イベリアのリアルを描く、歴史家ならではの著作である。=朝日新聞2024年10月26日掲載