秋田麻早子「なぜ、これが名画なの?」 比較、分解、観察……積極的な読者を作り出す
名画という唯一無二の存在。つい、孤高の存在と思ってしまうが、本書を読むとその考えが一変する。名画は決して1枚だけでは存在しない。必ず他の絵と関係がある。時代が違っていても関連しあっている。だから著者は必ず、別の「名画」と突き合わせる。違いはどこにあるか。似たところはどこか。本書で、時代をまたいで名づけられる「感性派」「理性派」という分け方の意味も、そこにある。絵は、決して孤立していない。
読者が名画の世界に踏み込むために、著者はそのヴェールを1枚1枚はがしていく。絵を並べて比較するなんて当たり前。カラー図版をあえてモノクロにして明暗のコントラストをあぶり出す。パーツに分解して観察する。絵に線を書き込む。読者が忘れた頃に同じ図版を再び引用して新しく得た知識で見直す。額縁をつけたり外したりする。全ては絵を分析する言語を手に入れるためである。言語であるなら、人と語り合うことができる。絵を見る我々も、孤立していない。
著者は繰り返し、もっと見続けようと読者を促す。新しい発見はないか? そう思っている自分に読者は気づく。読んでおしまいではない。積極的な読者を作り出す装置。本書が名著であるゆえんだ。=朝日新聞2026年2月7日掲載