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田附勝「ママ」 母が残したパッチワークに耳をすます

田附勝さんは74年生まれの写真家。木村伊兵衛写真賞受賞。全国の書店のほかオンラインショップ「オモシロ市場・兆(キザシ)」で購入できる。写真は「キッチン」(撮影:2024年8月、富山県)

 著者のお母さんが、おそらくお母さんになってからずっと作り続けてきたパッチワーク作品。その縫い目に寄った写真をじっくり見ていると、作り手の、針を運ぶ指の逞(たくま)しさや掌(てのひら)の厚み、皺(しわ)、体温までもが伝わってくる気がする。母の手仕事で飾りつけられた実家の台所や寝室、居間の景色に、なぜか懐かしさを覚える。そこがわたし自身の母や、叔母の家であってもおかしくないように感じるのは、多くの「ママ」が名もなきアーティストであることと関係しているのだろう。

 息子が写真家でなければ近しい人以外の目に触れることはなかったかもしれない母の作品は、写真の暗いトーンのせいか、幸せな家庭を想像させるいっぽうで、独特の激しさや重たさも感じさせる。巻末のテキストで田附(たつき)さんが語る家族の歴史を読んだあと、この写真集はまた別の顔を見せるかもしれない。

 お母さんの残したパッチワークに田附さんが向けるまなざしには、彼が縄文土器に向けるそれと通底するなにかがある。わたしにはそれが、去りゆく命が残した「もの」たちの声への、飽くなき興味であるように思える。「母」や「妻」というクリシェ(お決まりのイメージ)に抗(あらが)った女性と、彼女の「同志」だった子供たちの共闘生活の記憶を、鮮やかな配色のパッチワークとそこに落ちる陰影が静かに物語っている。=朝日新聞2026年3月7日掲載