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すずきてつお「かんじ こびとがつくるもじとことば」 大昔の人と光の糸でつながった

鈴木哲生さんはグラフィックデザイナーで、多摩美術大学非常勤講師。オランダのハーグ王立美術アカデミー修士課程修了。タイポグラフィーをはじめレタリング、ロゴ、イラスト、ウェブサイト、エディトリアルなどを手がける。本書は初の絵本。図版は本書の16、17ページから

 当たり前のように使う漢字だけれど、その一つ一つが、大昔に自分たちと同じように生きて、暮らしていた人が、考え悩んで作ったものなのだ、というのはよく考えればとても面白いことだ。このような形なら伝わるだろうか、このように組み合わせてみれば使いやすいだろうか、と工夫されて生まれた文字には、きっと想像もつかないくらい思考の積み重ねがあり、そして人が考えに考えて作り出したものについて、その思考の跡を辿(たど)って眺めることができた時、「わかる」と思えると私はとてもわくわくする。どんな人なのか、顔も名前も知らない大昔の人と、心が光の糸でつながったような感覚になる。この糸がずっとずっとうっすらと人と人の間にあって、わかる、わかる、わかる、といろんな人がほんのり思ってきたからこそ、漢字は何千年も使われてきたのだろう。それって人の持つ「思考」のロマンそのものであるように思う。

 この『かんじ』には、小人たちが漢字の形を茎を組み合わせたり、土をこねたりして、一つずつ作り上げていく様子が描かれているのだが、その作り方は元々のその漢字の由来を体感的に辿ることができるものになっている。象形、指事、形聲、會意といった漢字の成り立ち……というより、その漢字が生まれた時の人の思考回路を、間近で目撃できるような感覚だ。全身を動かして、漢字を作る小人の姿を見るからだろうか。この絵本を眺めた後は、漢字を見るとそれらの文字を作り上げた人々の気配が、少し濃く感じられるように思う。=朝日新聞2025年12月6日掲載